「組織の営業力を高める」。そう掲げたところで、実現は容易ではない。多くのソリューションプロバイダは、ユーザー企業から言われるままに製品やサービスを納める“御用聞き営業”を長らく続けてきた上、営業担当者は個人の成績だけを追い求めてきたからだ。好景気を受けてユーザー企業のIT投資意欲は高まっているものの、ソリューションプロバイダからの提案内容を見極める目は、厳さを増している。いまや、顧客の中長期のニーズまで把握し、営業全体で共有しながら顧客に深く食い込む“深掘り営業”への転換は待ったなしの状態だ。営業体制を今一度見直し、案件情報や営業ノウハウの共有を徹底することが、受注拡大のカギになる。



 「売り上げの規模を増やすことを第一にした結果、案件があれば得手不得手にかかわらず何にでも手を上げがちだった。それでは競合相手との違いを打ち出せない。今後は自社の強みを明確にして、顧客から『CSKでなければ』と言われるサービスを提供していくための戦略を練る」。CSKシステムズの秋葉斉史営業推進部長は、今年度から始めている主要顧客に対する営業戦略の見直しについて、こう説明する。

 CSKシステムズは今年度、主要顧客数十社について、営業戦略を定義したアカウントプランを見直す取り組みを始めた。顧客の業務内容や業務上の課題、経営課題を整理して、今後はCSKシステムズがそれぞれの顧客に対し、中期的にどんなサービスを提供していくべきかを明確にした。

 CSKシステムズが持つサービスは、システム開発やコールセンター、アウトソーシングなど多彩。そこでどの顧客にどんな強みを発揮できるかなど、領域を絞って営業戦略を立案する。その上で、営業戦略を実現するためのリスクや、CSKシステムズと顧客の各リソース、キーパーソンとの関係などの情報を基に細かいアクションプランを作成する。

 重要なのは、この営業戦略を全社で共有し、課題や進捗をレビューしながら営業活動を進めていること。顧客と深い関係を構築する“深掘り営業”を推進するためだ。

 新しい営業体制の実現に向け、同社は営業の役割の見直しも進めている。昨年度まで「営業部」が担っていたアカウント営業の機能を、「開発部」と役割分担する体制にしたのである。新体制では、新規顧客への営業は営業部が担う一方、既存顧客に対する継続受注や業務範囲の拡大といった営業は、ユーザー企業と日常やり取りをしている開発部が担当する。これまで培ったリレーションを生かし、ユーザー企業の新たなニーズを拾う役割も開発部の担当である。

 伊藤忠テクノソリューションズ(CTC)も、「スーパーアカウント戦略」と呼ぶ新たな戦略を打ち出し、深掘り営業への転換に取り組んでいる。まずは約50社のユーザー企業を選定。今年4月から、それぞれに対する営業戦略や取引目標、アクションプランなどを整備して、全社で共有する取り組みを始めている。

 選定したスーパーアカウントは、既存の有力顧客だけにとどまらない。「これまであまり取引がなくても、長期的かつ安定的に取引でき、収益拡大のため戦略的にアプローチすべきユーザー企業を選定した」(CTCの荒井智仁経営企画部長)。そしてスーパーアカウント50社のうち、新たに関係作りを目指す約30社を対象に、社長以下、経営会議メンバーや事業部の責任者、営業部門の責任者などが参加して、課題や進捗をレビューする会議を発足させた。

個人重視が機会損失に

 深掘り営業への転換に取り組むソリューションプロバイダが増えているのには、はっきりした理由がある。好景気を受けてユーザー企業のIT投資意欲は高まっているものの、ソリューションプロバイダからの提案内容を見極める目は、ますます厳しさを増しているからだ。過去の好景気のように、顧客の求めに応じて製品を持っていけば売れるというような“御用聞き営業”は通用しない。ユーザー企業の事業戦略まで共有し、中長期的なIT投資のパートナーになるべく、選別の目をくぐり抜ける必要がある。

 だが、ソリューションプロバイダの多くはこれまで、目前の期末売上の確保に走り、個々の営業担当者に毎年厳しいノルマを課してきた。営業担当者は、組織全体の成果よりも自分の売り上げ達成を優先し、個人商店の集まりのような営業組織になりがちだった。その結果、組織内の別の製品やサービスを売り込むチャンスがあるにもかかわらず、その情報を共有できずに販売の機会を失っていたのだ。

 ユーザー企業と長期にわたるパートナー関係を作るには、そうした営業体制では不十分。ユーザー企業のIT導入への要求は多様化、複雑化し、営業担当者個人のスキルやノウハウだけでカバーできる範囲は限られる。全体で提供できる製品やサービスを組み合わせ、ユーザー企業のIT化のロードマップまで見据えた提案が必要になる。つまり、顧客1社1社と深く付き合うための深掘り営業にシフトしていく必要があるのだ。



本記事は日経ソリューションビジネス2006年10月30日号に掲載した記事の一部です。図や表も一部割愛されていることをあらかじめご了承ください。
同誌ホームページには,主要記事の概要や最新号およびバックナンバーの目次などを掲載しておりますので,どうぞご利用ください。

日経ソリューションビジネス・ホームページ

定期購読お申し込みや当該号のご購入