今回は,サイトの目的による使いやすさの基準や求められる機能の違いについて考えてみたいと思います。ここで使っている「サイトの目的」という言葉は,「番組内で紹介したお得情報が紹介されているテレビ番組のサイト」とか「座席指定までできてしまう航空機チケット購入サービス」といった具体的な目的ではなく,もう少し大きなカテゴライズを表すものとして使っています。そして今回考えたいカテゴライズの軸は,そのサイトの「ツールとしての性格の強さ」です。

 昨今,ウェブを取り巻く技術の進歩や標準化が進んだこと,高速なインターネット回線が普及したことなどから,ウェブサイトが様々な目的で利用されるようになってきました。かつてはHTMLで記述した「情報を単に配信するだけのメディア」だったものが,「何かの作業をするための手段(=ツール)」として利用することを目的としたサービス・サイトが増えてきています。

 例えばRSSリーダーやソーシャルブックマーク(SBM)などは,情報の収集を目的としたツールです。オンライン・バンキングや航空券のチケット予約サービスも,ウェブサイトを使って能動的な作業を行うことができる一種のツール的サイトといえます。

 こうしたツール的なサイトと,昔からあるような情報を配信するサイトでは性格が違います。したがって,そこに求められる使いやすいサイトを作成するための機能が異なってくるはずです。そこで今回は,サイト構築の際に,そのサイトがどれくらい「ツールとしての性格」を備えているかを考えることで,実装しようと思っている機能が本当に必要なのかどうかを判断できるんじゃないだろうか,ということを考えていきます。

「ツール度」の判定基準として利用頻度を採用する

 一言で「ツールっぽいサイト」と言っても,RSSリーダーからチケットのオンライン予約まで様々なものがあります。「ツールとしての性格の強さ」を考える際には,そのサイトがツールとして利用されているかどうかだけを考えて二者択一で選ぶのではなく,「どれくらいツールっぽいか」という「ツール度」を尺度として考えたほうがよいと思います。それではいったい何を持ってツール度を判断すればいいのでしょう。

 その尺度は一種類ではないと思うのですが,ツールっぽさを表すための判断基準として,「どれくらい頻繁に利用するのか」ということを採用するのはどうでしょうか。

 例えば,RSSリーダーやSBMのサービスは,ほぼ毎日,人によっては日に何度もアクセスするアクセス頻度の高いサービスですから,ツール度が高くなります。株の取引をやる人なら,オンライン・トレードサービスもそうでしょう。それに対して,オンライン・バンキングのサイトの利用頻度はもう少し下がるでしょう。人によりますが,航空機チケット予約サービスもそれほど頻繁に利用するものではないでしょう(図1)。

図1:サイトの目的別に見る「ツール度」

 情報配信を目的とした「ツールではないサイト」はどうでしょうか。例えばパソコンの新機種発売のキャンペーン・サイトと,テレビ番組の情報サイトを考えると,同じ情報提供サイトでも利用頻度はずいぶん違うであろうことが予想できます。たいていの人にとって,テレビ番組の情報サイトのほうが,ツール度が高くなるはずです。

「わかりやすさ」をとるか,「速やかさ」をとるか

 一般的にサイトが使いやすいか,使いにくいかを利用者が判断する大きな要因として,「目的を果たす方法がすぐにわかるか」「いかに速やかに目的を果たすことができるか」というものがあります。ここで言う目的とは,情報配信サイトなら目的の情報を得ることですし,チケット予約サイトなら予約を完了することです。

 わかりやすくて,速やかに目的を遂行できるのがベストですが,いつもいつも,そのようにできるかといえば,なかなかそうはいかないものです。そこで,この二つの要因の重要度の比重を,サイトのツール度に決めることを考えましょう。ツール度が低い(利用頻度が低い)サイトでは,「いかに速やかに目的を果たすことができるか」よりも「目的を果たす方法がすぐにわかるか」が重要になります。一方,ツール度が高い(利用頻度が高い)サイトでは逆になるでしょう。

 利用頻度が低ければ,そのサイトを使うことに慣れていませんから,作業効率よりも,一つ一つの作業を間違いなく行えることのほうが重要です。例えば,何か作業を行った後,本当にそれでいいのかを確認する画面やメッセージを出したり,ヘルプや操作を説明する文章を画面上に多く配置したりすることなどがこれにあたるでしょう。

 一方,利用頻度が高いサイトでは,確認画面を何度も出したり,画面上に説明を出しすぎていたりするとうるさく感じてしまうかもしれません。もちろんわかりづらいサイトではだめですが,くどいくらいのわかりやすさよりは,操作効率の高さが求められます。

 実際,頻繁に利用するサイトの操作は自然に覚えてしまうものです。したがってそうしたサイトでは,より素早く利用できるような機能やインタフェースが有効だといえます。前回,例に挙げた,「パソコンやインターネットに詳しい人は検索エンジンとしてGoogleをよく利用するけれども,そうでない人はYahoo!を利用することが多い」という話にしても,よりシンプルで余計な情報がないGoogleを使う人は,Yahoo!を使う人よりも検索を多く利用する人である,という見方もできます。

 前回の最後に,携帯電話のことにも触れました。携帯電話はボタン操作が複雑で,電話をかけることくらいにしか使わない筆者は,なかなかそのすべてを覚え切れません。しかし,あの複雑な操作を覚えて自在に操っている人は周りにもたくさんいます。これはなぜかといえば,そうした人たちにとって携帯電話は利用頻度が高い「ツール」であるからだと思います。個人的には,それにしても複雑すぎるとは思いますけれど。