働きやすい仕事環境を作るための基本要素。現場の「整理、整とん、清潔、清掃、しつけ」の5つを指す。トヨタ流改革を始める最初の一歩である。

 イトーヨーカ堂が進めているトヨタ流の店舗改革で、作業改善プロジェクトのメンバーが最初に取り組むことは店舗にあるバックルーム(店舗の裏側にある商品の保管場所)の整理・整とんです。軍手とマスクを身に付け、清掃道具を手に持ち、最初の2~3週間はひたすらバックルームにたまった商品在庫やゴミの山、そして売り場を作るために使う什器(じゅうき)や備品を片付けていきます。

 改善前のバックルームは往々にして、どこに何があるのかがよく分からない状態になっています。作業効率が悪くても、長年そのまま放置されているのです。

 そこでトヨタ流改革ではまず、「整理、整とん、清潔、清掃、しつけ」の5つを指して「5S」と呼び、雑然とした仕事場を変える5Sの活動から始めます。工場でも店舗でもオフィスでも、いつもトヨタ流は5Sからスタートします。

 5Sの中でも特に大切なのが最初の2つ「整理・整とん」で、この2つを「2S」と呼んで5Sの前に2Sから活動を始めることもあります。また、トヨタ自動車社内では「4S」という用語もよく用いられますが、これはしつけを除いた4項目を指しています。

◆効果 余計な負荷がなくなる

 バックルームの5Sを例に取ると、最初にしなければいけないことは、その店舗に必要な在庫や什器、備品の数と、その置き場所を決めることです。どこにどの在庫や備品が何個置いてあれば、店員が楽に作業できるのかを考えます。意外なことに、置き場所が決まっていなかったり、何度も使う物が部屋の一番奥に置かれているケースがよくあります。

 置き場所を決めたら次は、今ある在庫や備品の数をリストアップし、いるものといらないものに分けます。いらないものは棚から抜き出して処分します。

 いらないものを捨てることで、その場がスッキリして物を探す手間などを省けるようになり、本来やるべき仕事に集中できるようになります。敷地を無駄使いすることもありません。

 5Sには「見える化」を促進する効果もあります。例えば、決まった場所に決まった物を置くルールを徹底すれば、物がなければ異変が起こったと気づきやすくなります。

◆事例 スペース生産性が2.5倍に

 富士ゼロックスの工場が2004年秋からトヨタ流に取り組み出した時も、5Sから始めました。まずは生産現場からいらない物や設備を撤去していき、余計なスペースを省きました。こうすることでラインが短くなり、作業者の動きがスムーズになって、敷地当たりの生産性が1年半で2.5倍になりました。ライン途中にあった仕掛かり在庫は半減しています。

参照:日経情報ストラテジー2006年8月号「特集2・ホワイトカラーのためのトヨタ流講座」