新たなビジネスに参入する,システムの開発効率を高める,コストを引き下げる・・・。企業が情報システムを新たに開発したり,システムの開発・運用体制を刷新したりするとき,その理由や狙いは様々だろう。

 なかには法律や制度の変更,海外企業の商習慣への対応といった“外的な要因”によって,システムを作ったり体制を変えたりしなければならないケースも多い。企業が財務諸表の適正性(つまり,財務報告にウソがないこと)を確保するための取り組みである「内部統制」は,そうしたケースの代表例だ。

 今年6月,いわゆる日本版SOX法としての性格を持つ「金融商品取引法」が成立し,上場企業には2008年4月開始の事業年度から「内部統制報告書」の提出が義務付けられた。この“外的な要因”によって内部統制の整備に取り組まなければならなくなった企業にとって,その実務的なガイドラインである「実施基準」の策定が遅れていることは頭の痛い問題である。

 残された時間は刻々と少なくなっているにもかかわらず,この実施基準が公開されないために“様子見”を続けている企業も少なくない。米国の証券市場に上場しているために米国SOX法(企業改革法)への対応を済ませた企業は別として,実施基準を見ないと「何をどこまでやればいいのか,そのサジ加減が分からない」というのが本音かもしれない。

 そうしたなか,米国の証券市場に上場していないにもかかわらず,米国SOX法への対応を念頭において,2年以上も前から内部統制整備に取り組んできた企業がある。大手総合商社の丸紅だ。

 同社は2004年3月,国内外のグループ企業を巻き込んで内部統制システムの整備プロジェクト「MARICO(MARubeni Internal COntrol system)」を立ち上げた。以来,2年以上の活動の成果として,2006年3月期の有価証券報告書に「代表者確認書」(記載内容に虚偽や誤りがないことを,代表者=勝俣宣夫社長=が確認した旨を記した書面)を添えて提出することができた。プロジェクトを立ち上げたときのゴールを達成したのである。

 丸紅はプロジェクトを成功させるための最大のポイントとして「トップマネジメントの強力なリーダーシップ」を挙げている。これは,単に経営トップが強い意志を持って社員を引っ張る,ということではない。むしろ「あくまで現場が自主的に取り組もうとする動機付けに注力する」(丸紅の辻村正孝リスクマネジメント部長)ことだという。

 外的な要因をそのまま外的な要因とだけ考えていては,このような発想は出てこないだろう。実際,内部統制整備の取り組みは,業務プロセスを可視化(見える化)したり,ITを使って不正の入り込む余地を無くしたりといった,経営者にとっても現場にとっても有益なことが多い。

 丸紅は,財務諸表の適正性確保に加え,これらのメリットを“内的な要因(動機)”に変えて,プロジェクトを推進してきたのではないだろうか。多くの企業が2008年4月に向けて準備を急ぐなか,丸紅は同じ時間を使って,内部統制の仕組みをより高いレベルに向けて改善していくことができる。これは大きな強み,あるいはアドバンテージだと言えるだろう。

 ここではスペースの関係で触れないが,同社の取り組みの詳細は,内部統制に関する総合サイト「内部統制.jp」に連載中の『【実践事例研究】丸紅グループ,内部統制プロジェクト2年半の軌跡 』で紹介している(第1回第2回を公開中。第3回は10月31日に公開予定)。興味のある読者は是非ご覧いただきたい。