筆者紹介 長倉 勉(ながくら・つとむ) 富士通総研公共コンサルティング事業部シニアマネジングコンサルタント/ASPIC ジャパン執行役員 富士通総研では、地方自治体における電子自治体・情報化計画策定、基幹系システム等再構築における最適化計画立案、共同利用・アウトソーシング基本計画立案等を担当。ASPICジャパンでは「災害時ICT基盤研究会」のリーダーとして、研究会の取りまとめめを担当。著書に『電子自治体アウトソーシング実践の手引き』(共著)。 |
ASPICジャパン(ASPインダストリ・コンソーシアム・ジャパン)では今年度、「災害ICT研究会」を立ち上げ、活動を行ってきた。本研究会では、大規模災害時(地震等)に、地域(基礎地方自治体及び住民等)において、情報コンテンツや情報基盤のあり方として、どのようなものが求められるかをテーマとして、災害分野に関連した有識者・IT技術者とともに研究を進めている。
ポイントについては以下の通りである。
- 災害時に地域の基礎自治体及び住民が求める必要情報の整理
発生前・発生時・発生後・3日以内など、刻々と状況が変化する中で求められる的確な情報とはどのような内容であるか - 実際の救助・救援に際して、求められる情報の収集と活用に必要なインフラ基盤について整理
- 必要情報に対する、具体的なベンダーシステムの有無の調査
- 災害時に有効に機能するための平常時の必要となる取り組み
上記ポイントに添った形で、災害分野に関連した有識者・IT技術者からの各種提案や意見を受け、現況を整理し、今後求められる具体的な災害基盤のあり方を提言内容としてまとめているところである。本連載では、この「災害時ICT基盤研究会」の成果について、エッセンスを分かりやすく紹介していきたい。
■災害現場と基礎自治体との間の情報基盤は"空白域"
阪神・淡路大震災が発生した1995年は、Windows3.1を搭載した、操作性の高いパーソナルコンピュータが登場し、パソコン通信を中心とした情報のやり取りが普及していった時代であるが、現在のICT環境とは比較にならず、災害時のICT活用も限定的であった時代だったと言える。
2004年に発生した新潟県中越地震の場合は、パーソナルコンピュータや携帯電話、インターネットのブロードバンド化等、ICT環境は飛躍的に向上していた。しかし、災害時を想定した場合、インフラ技術や環境が実現する遠隔地間での情報伝達やその即時性、デジタル化が実現する情報の正確性やシステムへの連携や転用など、ICTが本来と得意とする技術を生かした活用は、まだ十分な状況ではなかったと言える。
阪神・淡路大震災を教訓として、混乱期における被災地での住民行動への支援やそれらを円滑に支援すべき行政側対応、あるいはボランティアを含めた被災地をとりまく関係者がそれぞれの連携などにおけるICTの活用など、現在まで災害に対して様々な取り組みがなされてきた。しかし、現状においては、まだまだ発展途上の段階であると言えるだろう。例えば、新潟県中越地震の被災時には、支援物資の各避難場所への適正な配布や、各避難場所からの支援要望とボランティア団体とのマッチングなどにおいて不十分であったという意見も多かった。
■図1 災害対応と情報システム |
京都大学防災研究所 畑山満則助教授作成 |
また、現状の災害情報システムの仕組みについて見てみると、基本的な考え方としては、市町村・都道府県からの情報を基に国が被害状況を把握する仕組みは構築されているが、各基礎自治体(市町村)が避難所や関連機関と結んで情報を共有する仕組みはあまり構築されていないのが実情である。
■図2 国、地方自治体のシステム連携(神戸市の例) |
京都大学防災研究所 畑山満則助教授作成 |
国、地方自治体のシステム連携を見ても災害現場と基礎自治体との間の情報システムが整備されておらず、空白域となっている(上図。神戸市の例)。
現在、日本はいつどこで大きな地震が発生してもおかしくないと専門家の間でも言われている。例えば、東京を中心とした首都圏で大地震発生した場合、避難所に駆け込む住民および勤務者などの人数は、避難所1カ所当たり5000人以上に上るのではないかと予想される。避難所の担当者や被災者は、様々な対応を余儀なくされパニックに陥りかねないのに加え、安否確認や救援物資など様々な情報を求め、さらなる”情報パニック”にも陥る状態となってしまいかねない。
こうした、ともすればすべてが手探り状態で進めなくてはならない状況を打開するには、「空白域」に対し、情報伝達の迅速性・正確性・連携活用のなどICTのメリットを活用し、災害発生時の初期には特に安否に係る情報については迅速な把握をし、混乱を招かないようにそれら情報の問い合せへの対策を講じることが重要となる。こうした対策を講じることで、被災者当人だけでなく関係者すべてへの情報提供を行い、安心を提供できる手段(公開のための制度の整備及びシステム)を整備できる。加えて、誰もが利用できる環境(事前の住民の訓練含めて)を準備できるかも重要となると考える。
■被災地内、被災地から被災地外へ情報の流れが不十分
災害時には、混乱した状況下で安否確認や被災情報の収集など多様な情報が飛び交うことになるが、これら情報の伝達経路を整理すると、主に以下の4つの情報の流れが考えられる。
- (1)被災地から被災地外への情報
- (2)被災地外から被災地内への情報
- (3)被災地の内での情報
- (4)被災地外における情報
新潟県中越地震を例に見てみると、(2)(4)における被災地外からの様々なアプローチは構築され、機能していた様子がみられたが、(1)(3)の被災地からの情報の流れが不十分であり、取り組むべき課題であるといえる。
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(図3)で示した、具体的な情報提供元としては、以下が挙げられる。
- リアルタイム地震防災システム(気象庁など)
- 航空写真からの判読(国土地理院など)
- Webサイトの開設と情報の公開
(国土地理院,新潟県中越地震復旧・復興GISプロジェクトなど) - 住民の安否確認
安否放送(NHK)、災害用伝言ダイヤル(NTT東日本)、災害用伝言板(NTTドコモ,KDDI,ボーダフォンなど)
今後の取り組み課題としては、まず、第一に「情報発信から情報共有」が重要である。
被災地内での情報共有の不足は(図3)の通りであるが。被害状況→安否情報→生活情報など、被災者及び避難所で活動する人々が必要とする情報をそれぞれの立場を理解し共有する仕組みを構築する必要がある。
第二に、被災地を中心とした情報共有を考えた場合、通信手段の確保をいかに行うかが大きな課題である。
第三に、システム全体を機能させるためには、システム利用体制をどのように立ち上げ、基礎データの収集など、平常時にどのようなデータを収集するかを明確にしておく必要がある。それとともに、情報システムを活用するための訓練を十分に行っておく必要がある。
今回は本研究会の趣旨と、課題を中心に説明を行ってきたが、次回は課題で抽出された、必要情報、システム、ネットワークインフラについて時間軸等に整理をしながら説明を行う。