大和総研企業調査第三部シニアアナリスト  中村 哲也 氏 中村 哲也 氏

大和総研企業調査第三部 シニアアナリスト
伊藤忠商事を経て,2000年に大和総研に入社。現在,ソフトウエアと情報サービスセクターで主に中・小型株式の調査を担当。

 筆者は、日本版SOX法が適用初年度(2008年4月以降に始まる事業年度)までに、情報サービス業界に4000億~5000億円の特需を創出すると予測している。特に、(1)中堅・中小企業向けERP(統合基幹業務システム)、(2)操作証跡ツールやストレージなどのフォレンジック分野──への投資を加速させるとみている。

 金融庁が実務基準を公表(一部では10月に公開草案、12月に最終案と言われている)した後に、上場企業およびその関連会社の準備作業は加速し、2007年度は各社のSOX法対応関連の投資がピークを迎える年となろう。一方で、中長期的には、同法が大企業向けERPの新規需要を開拓し、かつ既存システム更新の需要をも促すと予想する。

 日本版SOX法は、上場企業に対して財務報告書が正しい過程を経て作成されたことを証明するよう求めている。上場企業は、(1)内部統制報告書を作成・運用できる体制・仕組み作り、(2)業務プロセスに「誤りがない」「不正がない」ことを素早く証明するための仕組み作り──の二つを早急に求められており、前者についてはERPの導入が有効な手段となる。後者については、フォレンジック機能の実装が必要になるだろう。

中堅・中小のERP導入が先行

 中堅・中小企業向けERPの市場は、大企業向けよりも一足早くSOX法の恩恵に預かりつつあるようだ。これは、オービックビジネスコンサルタント(OBC)やPCAなど、中小企業向けに会計パッケージビジネスを行う企業の足元の業績動向からうかがえる。

 中堅・中小企業における導入が先行しているのは、投資規模やカスタマイズの有無などの点で、大企業に比べ更新が容易なのが大きな要因だろう。一方で、大企業向けERPに関しては、内部統制監査や内部統制報告書の作成に必要となるコストを削減するために、日本版SOX法が本番運用を迎えてしばらく経ってから、更新需要あるいは新規導入の動きが本格化すると予想している。

 手作りの基幹システムを保有する大企業にとっては、ERP導入は業務プロセスの可視化や標準化を進める上でメリットが大きい。また、過去にERPを導入した企業においても、多くのカスタマイズを施したことによって実際には業務プロセスが標準化されていない場合が多い。今後はこうした企業が、ノンカスタマイズ、あるいは限りなくそれに近い、真に標準化されたERPへの更新を検討するケースが増えるだろう。

 一方、ERPと並んでSOX法特需の本命になる分野として、フォレンジック関連製品を挙げる。フォレンジック(forensic)とは、「裁判係争で決め手となるような有効な証拠となり得る」という形容詞である。企業は、内部統制の監査において財務報告書に記載された財務データのトレースバック(追跡)を求められる。加えて、追跡の対象となる業務プロセスが「誤っていない」「不正が行われていない」ことを証明しなければならない。

 トレースバックの機能についてはERPが実装するとしても、業務プロセスに不正がないことを正しく証明するには、経営者および従業員の操作証跡を収集して監視、分析するフォレンジックツールと、ログやレポートを安全な状態で蓄積するためのストレージシステムが必要になる。