米国における連邦民事訴訟規則(FRCP,Federal Rules of Civil Procedure)の改訂が,企業におけるメール・サーバー管理を変えようとしている。FRCPの改訂に関して,電子情報の管理が議論されているからだ。メール・サーバー管理者も,FRCPの改訂を意識した方がいいだろう。

 FRCPを簡単に説明すると,アメリカ合衆国連邦裁判所民事訴訟の規則集だ。FRCPには民事訴訟の要件と手順が画一的に定められていて,アメリカ合衆国連邦裁判所はFRCPに基づいて一定の基準で運営されるようになっている。FRCPの主な目的は,裁判所間での手続きにおける相違をなくすことで,多くの州の民事訴訟規則はFRCPに基づいている。FRCPの詳細に関しては,米Cornell大学が公開している「Legal Information Institute at Cornell Law School」というWebサイトが参考になる。

 FRCPの改訂によって,証拠開示手続きでの電子情報の扱い方が変更される。法律に詳しくない方に説明すると,証拠開示手続きとは,訴訟に巻き込まれたときに必要になる手続きで,起訴側が「開示」を要求するときに,関係記録を提出することである。もちろん,持っていないものを提示するよう相手が要求しているといって争うこともできる。証拠開示の論争は多くの民事訴訟において大きな要素であり,法廷ドラマなどで最も面白くなる部分でもある。

 今回のFRCPの改訂における,電子情報の取り扱い方法に関する議論をまとめよう。まず,電子的に保存された情報は,自動的に証拠開示から除外されなくなる。つまり,指定されない限り証拠開示に電子記録が含まれるようになるのが大きな変更点だ。他の大きな変更点は,調査が必要なビジネス上の記録に関する証拠開示手続きに,紙の書類やオフラインのアーカイブ・データだけでなく,電子的に保存されたすべての情報の調査が含まれるようになることだ。

 筆者が注目している変更点は,「規則37(f)条」に記される次の内容である。「例外を除き,これらの規則に基づき誠実に運用された電子情報システムで電子的に保存された情報が損失しても,裁判所は情報の提供が不可能になった当事者に制裁を加えない」。

 この「宥恕(safe harbor)」条項は,ディザスタ・リカバリ計画や運用に悪意なく失敗しても罰則は適用されない,という意味である。当然ながら,悪意的に失敗したら処罰の対象となる。しかし,この改正はまだ確定されたわけではなく,この条項は最終段階で削除される可能性もある。

 もう1つの大きな変更点は,情報の電子的な保存には過度のコストや労力がかかり「正当にアクセスできない」情報もある,と民事訴訟で当事者が申し出ることができるようになることである。何が「正当」で「過度」なのかは議論される必要がある。しかし,この規則にも,電子的に保存された情報を要求する際に裁判官の解釈に依存する(つまり議論の余地を残す)「正当な理由」という用語が使用されている。

 これらのFRCPの改訂は,しばらくの間議論の的であった。この規則は2005年4月に提案され,(連邦議会が行動を起こさない限り)2006年12月1日に有効になる。筆者はもちろん弁護士ではないので,あなたの会社にとってFRCPの改訂が重要であると判断したら,しかるべき専門家に相談されることをお勧めする。弁護士と話をするまでもない,と思っていても,現在実施している電子情報の保存法やその復元方法について確認しておいた方がいいだろう。