マイクロソフトが11月中に提供開始する企業向けWindows Vistaの詳細が明らかになった。ボリューム・ライセンス契約を結ぶ企業ユーザーが購入できる「ボリューム・ライセンス版」のOSメディア(DVD-ROM)を使うと,Windows XPと異なりプロダクト・キーを入力せずにOSをインストールできるようになったが,従来不要だったアクティベーション(ライセンス認証)が必要になった。ただしマイクロソフトは,ボリューム・ライセンス版のアクティベーションを簡略化する仕組みを用意する。その詳細を解説しよう。

 マイクロソフトは企業ユーザー向けに,「Windows Vista Business」と,上位版である「Windows Vista Enterprise」という2つのエディションを販売する。家庭向けVistaと企業向けVistaの最大の違いは,Active Directory(AD)ドメインへの参加機能の有無だ。これはWindows XPの「Home Edition」と「Professional」の違いと同様である。このほか,ファイルをいつでも任意の時点の状態に復元できる「Windows ShadowCopy」機能なども,企業向けVistaだけの機能になる。機能の違いをまとめると,表1のようになる。なお「Windows Vista Ultimate」は,家庭向けVistaと企業向けVistaの両方の機能を備えるエディションとなる。

表1●家庭向けWindows Vistaと企業向けWindows Vistaの機能の違い
  家庭向けVista Vista Business Vista Enterprise
ドメイン参加 ×
グループ・ポリシー対応 ×
2プロセッサ対応 ×
Windows ShadowCopy ×
イメージ・バックアップ ×
暗号化ファイル・システム ×
RMS*1対応 ×
Webサーバー(IIS) ×
FAX機能 ×
BitLocker × ×
UNIXサブシステム × ×
多言語版UI × ×
Virtual PC Express × ×
プリインストール販売 あり あり なし
*1RMS:Windows Rights Management Services

Windows Vista Enterpriseは「SA購入者」だけに提供

 2つある企業向けWindows Vistaのうち,Windows Vista Enterpriseのインストール・メディアはボリューム・ライセンス版のみが用意されており,「ソフトウエア・アシュアランス(SA)」を購入したユーザーにだけ提供される。SAとは,購入したライセンスに対して追加で購入する期間限定のアップグレード権だ。期間は通常3年で,その間に新バージョンがリリースされた場合は,ソフトウエアを最新版に何度でもアップグレードできる。

 つまり,Windows Vista Enterpriseを入手するには,(1)Windows XP Professional搭載パソコンにSAを追加購入する,(2)Windows Vista Business搭載パソコンにSAを追加購入する,(3)ボリューム・ライセンス制度で販売している「Windowsアップグレード・ライセンス(既存のWindowsを新しいバージョンにアップグレードする権利)」にSAを追加する---という3つの方法のいずれかしかない。

 残念ながら,Windows Vista Enterpriseを搭載したパソコンをメーカーから購入したり,OSを搭載しないパソコンにWindows Vista Enterpriseをインストールしたりはできない。Windows Vista Enterpriseはあくまでも,SAの特典という位置付けなのだ。

 実はマイクロソフトは,WindowsクライアントOSをボリューム・ライセンス制度で販売していない(詳しくは最後の囲み記事「クライアントOSは,ボリューム・ライセンス制度で販売せず」参照)。従ってWindowsのSAは,あくまでもメーカー製パソコンにプリインストールされたOEM版のWindowsをアップグレードする権利になる。SAは,ライセンス本体(この場合Windowsがプリインストールされたパソコン)の購入日から90日以内に購入する必要がある(後から追加できない)。

 なお,SAの特典はWindows Vista Enterpriseだけではない。例えば,仮想マシン・ソフト上でWindows OSを利用するためには,仮想マシン用にもう1つライセンスを購入する必要があるが,SAの購入者であれば,1つのWindows Vista上で4つのWindowsを同時に実行できる権利が与えられる。他のSA特典に関しては,関連記事「マイクロソフト,ソフトウエア・アシュアランスの“新特典”を明らかに」を参照していただきたい。

イメージ展開をしたいのならボリューム・ライセンス版が無難

 「SAは必要ない」という企業ユーザーであっても,SAなどを購入しないと入手できない「ボリューム・ライセンス版Windows Vistaのインストール・メディア」が必要になるケースもありうる。社内でクライアントOSの環境やアプリケーションなどを統一して,ネットワーク経由で展開するようなケースである。

 OSやアプリケーションをインストールしたハードディスクのイメージを,社内にある複数のパソコンにコピー(展開)する場合,その「ひな形」のライセンスが問題になる。これまで「メーカー製パソコンのディスク・イメージを取得して,それをほかのパソコンにコピーする」という手法が採られることが多く,マイクロソフトもそれを黙認していたのが現状だ。しかしマイクロソフトは現在,異なる見解を示している。

 マイクロソフトが主張する「ライセンス上,正しいイメージ展開」とは,「ボリューム・ライセンス版のOSメディアを使ってひな形を作り,それをWindowsがプリインストールされたメーカー製パソコンにコピーする」というものである。イメージ展開をするためにはボリューム・ライセンス版のOSメディアが必要なのだ。

 マイクロソフトはWindows Vistaのリリースと同時に,OSのイメージ展開ツール「Business Desktop Deployment(BDD) 2007」を無償提供する予定である(関連記事:マイクロソフト,Windows Vistaのイメージ展開ツールを無償提供)。イメージ展開をしたいのであれば,ボリューム・ライセンス版のOSメディアを入手するのが望ましい。

 現在,Windows XPのイメージ展開を行う際に,展開先の各パソコンごとにSAなどを購入しておく必要はない。何らかの方法(SAを5本以上購入するなど)でボリューム・ライセンス版のOSメディアを入手すれば,そのメディアでひな形を作成できる。Windows Vistaの場合,Windows Vista Enterpriseを展開したいなら,展開先のすべてのパソコンにSAを購入する必要がある。Windows Vista Businessを展開する際に,パソコンごとにSA購入が必要になるかどうかは不明だ。

ボリューム・ライセンス版Windows Vistaの秘密

 次に,ボリューム・ライセンス版Windows Vista(正確にはボリューム・ライセンス版のWindows VistaのOSインストール・メディア)を使う場合の注意点を説明しよう。