図 ユニキャストとの比較で見るオーバーレイ・マルチキャストのしくみ
図 ユニキャストとの比較で見るオーバーレイ・マルチキャストのしくみ
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 オーバーレイ・マルチキャストとは,クライアント・パソコンにインストールしたアプリケーション・ソフトでマルチキャスト(1対多通信)を実現する技術である。標準規格として決められた技術ではなく,各ベンダーが独自にアプリケーション・ソフトに実装している。2006年9月22日,ソフトバンク系列のTVバンクが,人気ユニットEXILEのライブ動画を最大2万5000台以上のパソコンに同時に配信したときに使ったのが,オーバーレイ・マルチキャストである。

 これまで同報型の動画配信サービスをインターネットで提供するには,配信サーバーからすべての視聴者にユニキャスト(1対1通信)で動画を送らなければならなかった。IPには,データを効率的に同報する技術「IPマルチキャスト」があるが,多様なプロバイダで構成されるインターネットではIPマルチキャストは使えないからだ。

 ユニキャストで同報型の動画配信サービスを提供するとなると,サーバー側の負荷が極めて高くなる(図上)。高画質の動画を配信するには,高性能のサーバーや太い回線を用意しなければならならず,多大なコストがかかる。このため,これまでの同報型サービスでは,画質の悪い動画しか見られないケースが多かった。

 こうした問題を解決する技術がオーバーレイ・マルチキャストだ。

 では,TVバンクのシステムを例にオーバーレイ・マルチキャストのしくみを見ていこう(図下)。

 TVバンクが同報する動画を見るには,専用のクライアント・アプリケーションをインストールする必要がある。ユーザーは,ブラウザでサービスにログインして見たい番組を選ぶと,すでにその番組を視聴しているクライアントのアプリケーションもしくはセンターの配信サーバーから専用アプリケーションがデータを受信して動画を表示する。

 このように,クライアント側のアプリケーションが受信中のパケットをコピーしてほかのクライアントに中継するのがオーバーレイ・マルチキャストだ。こうすることで,配信サーバー側の負担を増やすことなく多数のユーザーに動画データを同報できる。サーバー側の負担が減るので,コストをかけずに高画質の動画配信も可能になる。