■商談や会議・ミーティングにおける上手な会話の仕切り方について解説する「会話を仕切る編」第5回。コミュニケーションにおいて思い込みや聞き間違いによる誤解はつきもの。しかし情報は正確に伝わっているのに、こちらの理解したことが相手の真実と異なるケースがあります。いったいどういうことでしょうか。

(吉岡 英幸=ナレッジサイン代表取締役)


 商談やプロジェクトを進めるうえで、「通じたつもりなのに?」というコミュニケーション上の誤解は避けたいもの。

 情報が正確に伝わらないための誤解、または双方の解釈違いによる誤解については、以前に「 プロの仕切り屋が教えるコミュニケーション上達のツボ」という連載で触れたので、そちらをご参照いただきたい。ビジネスの世界ではこれとは別に、確かに情報は正確に伝わっているが、「それは真実ではなかった」ということが多々ある。

 仕様変更などでよく見かけるが、担当者はベンダーに「このような仕様にしてほしい」とはっきり要望を出したのだが、ユーザーの現場が「こんなんじゃ使い物にならない」と横ヤリを入れてきて、担当者がそれを丸呑みしてベンダーに突き返してしまうことがある。

 これ自体はとても理不尽な行為だが、そもそも現場の同意なしに担当者の一存で勝手に決められるものではないことが、あらかじめ分かっていれば予測できる事態である。しかし、担当者はそういうことには触れずに、「こうしてほしい」という情報だけを提供する。

 その時点で本来あるべき「真実」が歪められて伝えられていることになる。

 なぜこんなことが起こるのか。自分だけで決められるものと担当者自身が誤解している場合もあれば、現場も同じ思いなんだと誤解していることもある。「そういえばオレの一存じゃ決められっこないんだよな」と後から気づくこともある。

人は矛盾したことを平気で言う

 ことほど左様に、人は矛盾を内にはらみながら、それに気づかずに話すことが多いものなのだ。

 追加予算がないことは明白なのに、ついつい「こういう機能も追加してほしい。」と言ってしまう。冷静に考えるとそんなスケジュールは無理なのに、「じゃXX日までに間に合わせましょう」なんて空約束してしまう。あるいは、自分の意思があやふやな状態のまま「こういうふうにしてほしい」という要望を出す。

 こういうことは日常茶飯事だ。特に、お客様、上司など前言を撤回してもあまり責任を問われない立場だとよけいだ。指示がコロコロ変わる上司などはその典型かもしれない。

 相手が発するあやふやな真実に対しては、「本当にそうなのか?」と冷静に聞き返すのがいい。しかし、お客様に対して「本当にそれでいいんですか? ちゃんと考えた結果なの?」と相手の意思・判断を疑うような問いかけはしにくい。

3つの視点で問いかけて座標位置を定める

 そういう場合は3つの視点で、相手の意思や客観的な状況を確認するという問いかけの仕方をするといい。例えば、

「部長が最優先されている機能は何ですか?」(自分の意思)
「現場の意見はいかがですか?」(他者の意思)
「予算の点ではいかがですか?」(客観的な条件)

など視点を変えて聞くのだ。

 立体の座標はXYZの3つの座標軸で決定される。それと同じで、真実も「言葉になった情報」という1つの座標軸だけでは見えないことがある。自分が見えていない視点を提供することで、「あ、よくよく考えるとこうだな」というふうに、それまで見えていなかった真実を相手に気づかせるのだ。

 会議などでもよく、「やるべきことは何か?」というあいまいな議題で優先順位がつかないときなどは、

「最も影響度の大きなことは何か?」
「最も早く実現できることは何か?」
「最もコストが低く実現できることは何か?」

などというように、異なる視点を与えて考えさせることがある。

 視点はさまざまであっていい。重要なことは1つの視点だけではなく、2つ、3つと視点を持つことで、双方にとってあいまいな真実を明確な座標に浮かび上がらせることだ。


著者プロフィール
1986年、神戸大学経営学部卒業。株式会社リクルートを経て2003年ナレッジサイン設立。プロの仕切り屋(ファシリテーター)として、議論をしながらナレッジを共有する独自の手法、ナレッジワークショップを開発。IT業界を中心に、この手法を活用した販促セミナーの企画・運営やコミュニケーションスキルの研修などを提供している。著書に「会議でヒーローになれる人、バカに見られる人」(技術評論社刊)、「人見知りは案外うまくいく」(技術評論社刊)。ITコーディネータ。