正直に白状しよう。記者はWindows歴が10年以上と長いが,まだまだWindowsを己の身体の一部であるかのようにスムーズに操作できるまでには熟達していないということを。マウスを用いたファイルのドラッグ&ドロップは苦手だし,フォルダの中から所望のファイルを目視で見つけるスピードも,自慢ではないが遅い。場合によっては,作業の内容にもよるが,わざわざ別のUNIX機にファイル群を移して作業するケースもある。

 もちろん,Windowsは世界中で何十億人ものユーザーが利用しているOSであり,その成熟度は極めて高い。他のOSと比べてみても,GUI(Graphical User Interface)の操作感覚やGUI部品の完成度を含めたデザインは,一歩先を行っていると言ってよい。OSとして最大のユーザー数を誇るWindowsのGUIには,その上で稼働している個々のアプリケーション・ソフトウエアを含めて,暗黙知やベスト・プラクティスが結集しているはずだ。

 ところが,この素晴らしいWindowsのGUIでも,記者だけかも知れないが,ファイル/フォルダの操作は極めて難しい,と言わざるを得ない。

Windowsはファイル/フォルダ操作が大変

 まず,フォルダの中からファイルを探し出す作業に手間取る。フォルダをマウス・クリックで辿り,表示方法を「詳細表示」に変更して1列に並べ,名前順でソート表示して,所望のファイル名を,目を凝らして探す。この時点で目が疲れる。ストレス耐性のない記者は,イライラしてマウスを机に叩き付ける。ようやく探し出して安堵したのも束の間,ファイルをアプリケーションのアイコンへとドラッグ&ドロップしようとして手先が滑り,誤ってファイルをコピーしてしまうこともしばしばだ。

 もちろん,アプリケーションの「ファイルを開く」メニューを用いて,ファイルを指定する方法もある。だが,この方法で防げるのは,ドラッグ&ドロップによる意図せぬファイル・コピーだけだ。目視でファイルを探す作業が面倒臭い,という本質が変化するわけではない。コマンドプロンプトを立ち上げて手動でパスを辿る気にもなれない。フォルダの名称が一種独特だからだ。例えば,記者のデスクトップのパスは「C:\Documents and Settings\hikawa\デスクトップ」。このパス名を入力する人がいたとしたら,会ってみたい気がする。

 ファイル/フォルダの検索アプリケーションから探す方法もあるが,わざわざ検索をかける気にはなれない。指定するフォルダ配下にどれだけのファイルがあるのか,どんな種類のファイルがあるのか,があらかじめ分かっていたとしても,検索をかける行為には心理的な負担が付き物だ。つまり,「検索は時間が多少かかってしまうのではないか,目で探した方が早いのではないか」という迷いが生じてしまう。

CUIではやはり素直にUNIXか

 ちょっとした単純作業は,インタプリタ言語処理系を用いてスクリプトを書くのが早い。例えば,文字列処理をしたいならsedやawkといった文字列操作を中核とする処理系が向くし,ファイル操作用にラッパーを作りたいのであれば,ファイルI/O(入出力)を簡単に記述できるshやcshといったシェル・アプリケーションが使える。文字列処理もファイル操作も同時に実行したいならperlなどの処理系が向いている。

 そして,こうしたインタプリタ言語処理系を使うための環境として,UNIXは極めて使いやすい,という意見をここでは提示したい。確かに,UNIXユーザーであるということは,ユーザーの性格(パーソナリティ)や生き方(ライフ・スタイル)などを前提としており,好き嫌いの問題である。よって万人には薦められないのだが,少なくとも記者にしてみればUNIXほど使いやすい環境はない。Windowsにも,スクリプト実行環境のWSH(Windows Script Host)やGNUツールをWindowsへ移植したcygwinを使うというソリューションがある。しかしGUIを前提とするWindowsでは,先述のパス名でも分かるようにCUI(Character-based User Interface)の使い勝手はいまいちであり,UNIXを使う方が素直な気がしている。

 UNIXでちょっとした作業をする際に基本となるマン・マシン・インタフェースは,端末エミュレータである。DECの「VT100」といった往年のCUI端末と同様の動きをする最強かつナイスな環境である。具体的には,Xクライアント・アプリケーションの1つであるxtermや,そもそもX11を使わない環境下でのコンソール画面などが端末エミュレータに相当する。

 端末エミュレータとコマンドライン・インタプリタ(シェル)の組み合わせは,これはもう,言葉では上手く言い表せない,未知の体感ゾーンである。あえて表現すれば,よく整備された往年の名車AE86が奏でる4A-Gエンジンの官能的な吹け上がりサウンド,あるいは幾多の戦場を潜り抜けて良い顔になったライカM4にマウントされたツノ付き6枚玉Summicron 35mmレンズ(フード無し),といった趣がある。良い道具が持つ質実剛健さが感じられるのである。

 ちなみに,UNIXユーザーにしてみれば当たり前のことになってしまうが,UNIXユーザーとしてのライフ・スタイルを形成するには,真っ先に体験しておいた方がいい基礎項目が3つあると記者は考える。(1)標準入力(stdin)を0,標準出力(stdout)を1,標準エラー出力(stderr)を2,その他ファイルを3以降とするファイル・ディスクリプタ,(2)プロセスとシグナル,(3)ログ出力機構のsyslogである。(2)の詳細は,UNIX/Linuxディレクトリの/usr/include/sys/sygnal.h,(3)は同じく/etc/syslog.confと/usr/include/sys/syslog.hなどを参照してもらいたい。