◆今回の注目NEWS◆

◎「ICT国際競争力懇談会」の開催(総務省、10月6日)
http://www.soumu.go.jp/s-news/2006/061006_5.html

【ニュースの概要】総務省は、情報通信分野における国際競争力強化について、基本的な戦略の方向性を検討する「ICT国際競争力懇談会」を開催。来年4月を目途にとりまとめを行う予定。


◆このNEWSのツボ◆

 総務省が「ICT国際競争力懇談会」を開催する(第1回会合10月19日)。モバイルやインターネット(ブロードバンド)の分野では、日本は世界をリードしていると言ってよいだろうが、ネットワーク関連機器やコンテンツ(知的財産権)の分野での競争力という面では、「国際的競争力を有する」とは言い難く、このあたりを強化していくというのが、目標のようである。

 ただ、錚々たるメンバーが並ぶ委員リストを見て、少しだけ違和感も覚えた。総務省は、このICT分野での次世代の競争力を築くとしたら、それは「誰」だと考えているのだろう?

 ネットワーク社会で、今、世界的に最も注目される企業が「Google」であることには多くの人が同意するだろう。もう少し視野を広げて、過去10年前後の間に、世界のICT業界をリードするような活躍をしてきた企業を掲げれば、Microsoft、Yahoo!、そしてGoogleといったところだろうか。問題は、これらのすべての企業が「新進の挑戦者」であったということである。

 MicrosoftはIBMの支配するレガシー・システムに対する挑戦者であったし、Yahoo!が登場した頃、最も注目されていたのはAOLとタイムワーナーの合併であった。そして、GoogleはYahoo!をターゲットとして成長してきたと言っても間違いではないだろう。つまり、新しい時代の覇者は、既存のチャンピオンに挑戦し、台頭してきたのである。

 今や古典と言っても良い、MITのクレイトン・クリステンセン教授の著書『イノベーションのジレンマ』によれば、技術パラダイムの大きな変化が起こるときに、既存の勝者は、「正しい戦略を採るがゆえに」必ず失敗するとされている。それは、既存の勝者は、今、ここにあるフレームワークの中で自分の成功を成し遂げたのであるから、そのフレームワークを破壊しかねない、新しいイノベーションへの対応は必ず遅れる。そしてビジネス的には、この「遅れ」が致命傷となり、新しい技術パラダイムの下では成功者となれない…というものである。

 こうした目で、この懇談会のメンバーを見ると、複雑な思いがする、ぐるなびの滝社長、アクセスの荒川社長、インデックスの小川社長など、数名の新しい顔ぶれは見受けられるが、全体としては、既存の成功者の代表とも言うべき人達が名を連ねている。彼らが、本当に次世代ネットワーク時代の日本の競争力の担い手なのだろうか? 彼らが望む政策のフレームワークが日本の競争力を構築する政策体系になるのだろうか?

 総務省は、本当に、この懇談会での議論を通じて新しい政策のフレームワークのヒントを得たいと考えているのか?それとも、既にある程度の素案が存在し、権威付けの場として、この懇談会を開始したのか?

 私が総務省の真意について、悩む所以である。

安延氏写真

安延申(やすのべ・しん)

通商産業省(現 経済産業省)に勤務後、コンサルティング会社ヤス・クリエイトを興す。現在はウッドランド社長、スタンフォード日本センター理事など、政策支援から経営コンサルティング、IT戦略コンサルティングまで幅広い領域で活動する。