私が,おサイフケータイで電子マネーを使うようになって,1年半ばかりがすぎました。その間に,使えるコンビニやスーパー,レストランなどは着々と増えています。今では,現金で支払わなければならないコンビニには足が向かないほど,生活に密着してきました。

 おサイフケータイは,モバイルFeliCaという非接触ICチップを搭載し,リーダー/ライターとの間で無線の通信をしています。無線ICタグ(RFID)の一種と言えるわけです。おサイフケータイが生活に欠かせなくなったこの秋,私は「日経RFIDテクノロジ」という無線ICタグの専門誌との兼務を命じられました。無線ICタグから,「便利に使うだけではなくて,しっかりと勉強しなさい」と言われたような気がしています。

 おサイフケータイやFeliCaカードで,電子マネーや交通機関の乗車券を使う姿は,すでに珍しいものではありません。JR東日本のSuicaは首都圏ではごく一般的に使われていますし,関東の私鉄なども2007年には同様のサービスを始めます。冒頭にも書きましたが,小額決済の多い業態の店舗では,FeliCaのリーダー/ライターを見かけることがとても多くなりました。無線ICタグという言葉は知らなくても,一般消費者になじみの深いものになってきたわけです。

 一方で,無線ICタグ活用のもう一つの“本丸”は,各種の業務効率化へのソリューションでしょう。無線ICタグは,工場のラインなどでは使われてきました。とは言え,広範囲に使われる段階にはもう少し時間がかかるようです。

 製造から物流,そして最終的な販売のシーンまで,さまざまな側面で共通して無線ICタグの情報を活用できれば,業務の効率化に奏効します。そのための標準化や各種の実証実験は進められていますし,実際に企業や国をまたいで無線ICタグを活用する事例も出てきています。

 先週のことです。先端情報工学研究所(Liti)が民事再生法の適用を東京地裁に申請したというニュースが飛び込んできました。この研究所は,無線ICタグ技術を核として,物流や商品管理,販売システムの開発を中心にした事業を手がけてきました。アパレル業界の無線ICタグを使った実証実験などにも力を入れてきました。その研究所が,191億円の負債を抱えて“倒産”したのです。

 実際,同研究所は,無線ICタグのシステムを開発していただけではありませんでした。システムを備えた倉庫など物流拠点の運営も行っていました。投資を回収できるだけの収益を上げられなかったことが,民事再生法適用申請に至った理由のようです。

 業務用システムの開発を手がける会社が,そのシステムを運営するために物流拠点まで用意する‥‥。ユーザー企業の利用を見込むために物流インフラまで作らなければならない状況が続いてしまったことが,この研究所にとってもユーザー企業にとっても不幸だったのでしょう。もう少し早く無線ICタグシステムが広く受け入れられていたら,状況は変わったかもしれませんし,物流拠点の運営などにまで資金を投じる必要はなかったかもしれません。

 無線ICタグの業務活用は,民生用のFeliCaなどとはペースは違うとしても,着実に普及が進んでいます。経済産業省の響プロジェクトの成果である,いわゆる「5円タグ」の響タグも,製品の出荷が間近に迫ってきました。無線ICタグの勉強を始めたばかりの“駆け出し記者”としては,今回の倒産が国内の無線ICタグシステムの普及に水を差すことなく,さらなる発展への礎になってほしいと切に念じます。

■お知らせ■

 日経RFIDテクノロジでは11月1日に「最新技術と事例に学ぶ無線ICタグ活用のポイント」と題した特別セミナーを開催いたします。

 UHF帯ICタグの干渉問題については,その実体を検証された日本自動認識システム協会UHF帯ワーキンググループ座長の亀丸敏久氏(三菱電機情報技術総合研究所)に専門家の立場から実験結果の詳細と対策について解説いただきます。

 このほかUHF帯ICタグ「響タグ」と実導入される食品スーパー「エコス」など,先進ユーザー企業の活用事例を基に「無線ICタグをどのようにして使いこなせばよいか」という導入のポイントを明らかにするセミナーとして企画いたしました。無線ICタグの最前線を見渡すことのできる必聴のセミナーとなっておりますので,ぜひご参加下さい。詳細はこちら