米Microsoftは現在,10月25日という締め切りに間に合わせるために,必死になってWindows Vistaの開発に取り組んでいる。しかし,この土壇場になって,Windows Vistaにはいくつか変更点が追加された。これらは,欧州連合(EU)と韓国における独占禁止法の要件を満たしたり,Windows Vistaのセキュリティ機能に関する批判に対応したりするための変更であった。これら変更点の概要と,一般ユーザーに与える影響などについて解説する。

 まずは,MicrosoftがWindows Vistaに変更を加えるに至った経緯を説明しよう。Microsoftが現在,欧州で複雑な法廷闘争に巻き込まれていることは多くの方がご存知だろう(同社が韓国でも同様の問題に直面していることを知っている方は,恐らくそれほどいないだろう)。2004年にEUの欧州委員会(EC)は,欧州の独占禁止法に違反したとしてMicrosoftを告訴し,罰金を払うことや,Windows Media Player(WMP)が搭載されていないWindows XPを欧州でリリースすること,そして競合他社が閲覧できるように,Microsoftのサーバー製品と統合可能なソリューションの簡単な作成方法を解説した文書セットをリリースすることを同社に命じたのだ。

 Microsoftは即刻罰金を支払い,同裁定を不服として上訴した。その1年後,同社はWMPを搭載しない「Windows XP N」を発表した。だが今日に至るまで,MicrosoftはEUからの要求の最後の部分,つまり技術文書の公開には応じていない。このことが原因で,EUは再びMicrosoftに罰金を科した。そして現在,Microsoftはこれら両方の裁定を不服として上訴している。つまり,EUによる最初の独占禁止法違反の告訴と,命令にすぐに応じなかったかどで最近科された罰金の両方だ。もはや泥沼状態である。

様々なベンダーがWindows Vistaの新機能に苦情

 さらにEUは2005年になって,Windows Vistaに関心を向けると発表した。それ以来,Microsoftと競合する様々な企業が,Windows Vistaのいろいろな技術についてEUに苦情を申し立てた。例えば米Adobe Systemsは,MicrosoftがWindows Vistaに搭載する予定のXPS(XML Paper Specification)は,同社のPDF関連の商売に損害を与えると感じた。Microsoftは当初,Office 2007の「名前を付けて保存」機能にPDFとXPS形式で保存できる機能を加える予定だったが,後にこれらの機能を削除することに同意した。同機能は無料ダウンロード・サービスを通してユーザーに提供される予定である。

 米Googleは,IE 7の検索バーはユーザーを不当にMicrosoftの検索サービスに誘導していると不満を述べた。さらに最近,米McAfeeと米Symantecは,Windows Vistaのカーネル・パッチ保護技術や「Windowsセキュリティ・センター」といったセキュリティ技術は競争を抑止するもので,両社が必要な機能を提供するのを妨げると不満を表明した。

 Microsoftと競合する企業は,EUという自分たちの意見に耳を傾けてくれるパートナを得たことによって,有利に交渉を進められる立場に立った。その結果Microsoftは今年,欧州の独占禁止監視当局からの絶え間ない質問を受けた。そしてMicrosoftは,競合他社の要求を満たすためにWindows Vistaにさらなる変更を加えなければならないとEUが判断した場合,欧州で同製品のリリースを延期する必要が生じるかもしれないと,発表したのだ。

 これに激怒したEUは,MicrosoftにはEUの独占禁止法を遵守する責任があり,法律に違反しないように気を付けなければいけないのは,EUではなくMicrosoftの方だと返答した。EU関係者の中には,監視当局に対して,Windows Vistaの発売が遅れたら欧州の企業は打撃を受けるのではないかと公然と懸念を表明するものもいた。膠着状態が発生したのだ。

 一方で,韓国でも独占禁止法に関連する問題が発生した。韓国最大のインターネット・サービス事業者が2001年に申し立てた不満を受けて,韓国政府は「Windows Messenger」をWindows XPにバンドルしたのを不当とみて,Microsoftを独占禁止法違反の罪で告訴した。Microsoftは2005年後半にこの件で和解に達し,それ以後同国では独自のバージョンのWindows XPをリリースしている。「Windows XP K Editions」と呼ばれるこのWindows XPでは,Windows Media PlayerとWindows Messengerが取り除かれており,競合他社のメディア・プレーヤとインスタント・メッセンジャー・ソフトウエアにユーザーを誘導するリンクが埋め込まれている。

 韓国での一件は欧州におけるMicrosoftの苦境ほどにはメディアで報道されなかったものの,韓国の公正取引委員会(FTC)は明らかに,Windows Vistaについても目を光らせている。最近のニュースでは,MicrosoftがWindows Vistaに加えた変更によって,Windows VistaではWindows XPほどの問題は生じないだろう,と報じられている。

Microsoftが下した決断とは

 欧州と韓国の独占禁止監視当局や,数多くのセキュリティ企業がMicrosoftに苦情を申し立てる中で,Microsoftはついに行動を起こす決心をした。同社はあらゆる批判に応えるために,多くの変更をWindows Vistaに加えると発表したのだ。特筆すべきなのは,こうした変更点を容認するかどうかを,独占禁止監視当局にもセキュリティ企業にも尋ねなかったことだ。Microsoftによると,意図的に尋ねなかったそうである。だが筆者は,Microsoftが批判者たちにもっと歩み寄ろうとしなかったことに驚いている。いずれにせよ,Microsoftの弁護士であるBrad Smith氏が変更点について筆者に手短な説明を行ったあと,Windowsクライアント・ビジネス・グループのゼネラル・マネージャであるBrad Goldberg氏が,Microsoftの法務・政策企画統括本部(LCA,Legal and Corporate Affairs)の弁護士であるMary Snapp氏と一緒に,筆者に変更点について説明してくれた。その内容を,以下に説明しよう。