システムのレイムダック化やその甦生に関わる人々について,今までユーザー部門,情報システム部門の人々を取り上げてきたが,今回はCIO(最高情報責任者)を取り上げよう。ここで取り上げるテーマは,CIOだけではなく,CIOを任命・管理するトップ,CIOに仕える人々,CIOの影響を受けるユーザーにも関わるテーマである。

 CIOの必要性・企業の中での位置付け・役割…,などの議論が盛んである。CIO像を明確にすることが,システムのレイムダック化(弱体化)と甦生に関わるCIOの議論を分かりやすくする。いやCIO像が明らかになれば,レイムダック化がほとんどCIOの責任であることが分かってくる。

 CIOについて理解しやすくするために,筆者の経験や実態を考察することから始めよう。

CIOの多くは他業務との兼任

 筆者が経験したり身近で見聞したりしたCIOは,全て他の業務と兼任であった。日経コンピュータ2006年10月2日号の調査「企業の『IT力』ランキング」でも,専任のCIOがいる企業は9.6%,兼任者は60.1%,CIO担当不在は29.8%となっている(有力企業178社が回答,関連記事)。

 兼任者にもいろいろあり,筆者の経験から3種類に分類できる。それぞれをA氏,B氏,C氏として,以下,具体的に説明していこう。

 まず,CIOが全く形式だけのものだ。A氏は,中堅の機械メーカーで取締役総務部長兼任のCIOだった。しかもA氏自身が若い頃情報システム部門に一時所属した経験を持つ。にもかかわらず,A氏は何故かシステム部門にもITにも全く関心を示さなかった。トップもそれを一切とがめなかった。この場合のCIOは,システムのレイムダック化に大きな影響を与えるばかりか,その甦生に関与する才覚を全く持ち合わせていない。トップの姿勢にも問題がある。

 次に,情報システム部門にだけ関わろうとするもの。中堅の情報機器メーカーで取締役経理部長兼任のCIOだったB氏は,配下の情報システム部門にだけ関心を寄せていた。全社ITについての関心など最初からなく,日常業務のトラブルに対する情報システム部門の防波堤になることを最大の任務と心得ていた。しかもITについては無知なので,人事だけに関与し,権威だけは保持した。この場合のCIOも,ダメシステムの甦生に何も期待できない。

 三つ目のケースとして,ITの大局を捉えようと努力するものがある。大手電気機器メーカーの某事業所で,C氏は経理部長兼任のCIOを担当していた。C氏の経歴はITに縁が薄いものだったが,常に大局的視点で情報システム部門の相談に乗り,全社ITを視野に入れて考えていた。ライン部門とのローテーションを計画して人材の育成に努め,IT投資やIT戦略について情報システム部門長を強くバックアップした。C氏のようなタイプは,ITを詳しく知らなくても,ダメシステムの甦生に力を発揮できる人材であり,頼りになる。

 同じ兼任のCIOでも,個人差がある。それは,その個人の資質の問題である。従って,兼任であることを,全て否定することはできない。それに,専任のCIOが全て頼りになるというわけでもない。兼任・専任合わせてのことではあるが,CIOに対するCEO(最高経営責任者)や社員の認識は,CIO自身の認識と大差がある。米ガードナーの調査によると,CIOの約80%が「自分はCEOから信頼されている」と回答したのに対し,「CIOの役割はビジネスを進める上で重要」と答えたCEOは40%に満たなかった。CEOは将来を重要視して広い視点で企業戦略を考えているが,CIOは現在を重要視する。確かにIDC JAPANの調査でも,「コスト削減」を最優先の経営課題に掲げるCIOが圧倒的に多かった。

 一方,ITproの「動かないコンピュータ・フォーラム」の調査でも,「日本企業に本当の意味でのCIOがいると思いますか」という質問に対する答えで,「いる」が約7%,「少しいる」が約44%,「ほとんどいない」が約35%だった。本当の意味でのCIOが,量的にも質的にも少ないことがうかがえる(関連記事)。

CIOは企業のビジネスプロセス全体に責任を持つ

 さていろんなタイプが存在するCIO,上からも下からも信用されることの少ないCIOとは何か,その役割や条件などを考察しないと前に進めそうもない。

 CIOとは,企業の経営戦略を実現するために情報資産やITのあり方,活用の仕方を戦略的に企画・立案・実行する最高意思決定者である。そう考えたとき,「CIOとは,CPO(Chief Process Officer)である」(独IDSシェア会長,「ITセレクト」'05.5月号)という定義が,最も適しているようである。CIOは企業のビジネスプロセス全体に対して責任を持つことを求められる,という意味である。

 では,そのCIOの役割は何か。役割は企業の置かれた立場で異なる。例えば,市場で優位に立つ企業,競争的状況にある企業,後追い企業で異なる。ここでは,それらの条件は捨象する。

 CIOには,一般的な役割とシステム導入に特化した役割とがある。CIOはその役割を果たすべく努力しなければならないが,その役割の中でシステムの有効性に大きく影響する部分がある。その部分で欠けるところがあると,システムのレイムダック化に関わることになる。

 一般的役割には,まずマネジメントレベルとして
1.既存業務の抜本的改善・新事業の開発
2.トップの経営方針に基づいて関連部門の協力を得るための環境作りや部門間の調整

 続いてビジネスレベルとして
3.情報システム部門の管理
4.情報化予算・コストの管理
5.システム開発業者などの選定
6.セキュリティに関するリスク管理
7.社員教育

 そして技術レベルとして,
8.情報システムのインフラストラクチャの構築・管理

などがある。これら全てがシステムのレイムダック化に影響するが,特に1,2,5,7の影響が大きい。

 一方,システム導入に特化した役割は,システム導入の成功条件を完全実施することであり,全てがシステムのレイムダック化に関わる重要条件である。

 こう見てくると,CIOがシステムのレイムダック化に決定的責任を負っていることが分かる。先に例示したA氏,B氏の両取締役部長CIOは役割を認識していないばかりか,学ぼうともしない。彼らのようなCIOの下でシステムが導入されれば,間違いなくレイムダック化する。一方,C氏は経営本能として役割を心得ている。その場合,システムは有効稼働するであろう。

 次回は,CIOはダメシステムの甦生にどのように関わるべきかを検討する。自らダメにしたシステムの甦生にCIO自身がどう関わるべきかという,矛盾した議論を展開するつもりだ。


→増岡 直二郎バックナンバー一覧へ

■増岡 直二郎 (ますおか なおじろう)

【略歴】
小樽商科大学卒業後,日立製作所・八木アンテナなどの幹部を歴任。事業企画から製造,情報システム,営業など幅広く経験。現在は,nao IT研究所代表として経営指導・執筆・大学非常勤講師・講演などで活躍中。

【主な著書】
『IT導入は企業を危うくする』,『迫りくる受難時代を勝ち抜くSEの条件』(いずれも洋泉社)

【連絡先】
nao-it@keh.biglobe.ne.jp