米Newsdayに以下の記事が掲載された。

 「イスラム教シーア派武装組織ヒズボラとレバノン当局の情報によると,ヒズボラのゲリラは,2006年8月にレバノン南部でイスラエルと交わした戦闘の際,イスラエル側の無線通信の傍受に成功して機密情報を入手し,イスラエル軍戦車による攻撃の妨害に役立てたという」

 「ヒズボラの特殊部隊は,おそらくイランから得た技術を使い,定期的に周波数を変更するイスラエル軍の通信を戦場において傍受したのだ。ゲリラは,傍受した情報からイスラエル側の動きや死傷者に関する報告,補給ルートなどを把握した。さらにヒズボラ/レバノン当局は,『通信傍受のおかげで,ヒズボラの対戦車部隊がイスラエル軍の機甲部隊を効率よく狙うことができた』としている」

 記事を読んでみよう。基本的に,問題は運用時の間違いにある。

 「無線通信に使う周波数を変えつつ暗号化すると,ほとんどの場合,傍受は極めて困難となる。しかし戦場にいる部隊は,安全な無線通信手順から逸脱するという間違いをときおり犯し,周波数の変更パターンを見破るヒントを敵に与えることがある。レバノン当局は,イスラエルとヒズボラとの戦闘でこうした事態が生じた可能性を指摘する。さらにヒズボラの部隊は,周波数が変化しても無線信号を傍受できる高度な偵察装置を持っていた可能性もある」

 私の見解は,英The Registerに掲載された以下の記事と一致する。「ヒズボラの兵士は(イスラエル)部隊の動きや補給ルートに関する機密情報を入手するために,この機密情報(周波数変更パターン)を利用できた,と考えることが少なくとも素人目には妥当だ。ただし,(周波数の変更パターンを利用できたとする)この情報は匿名の情報源によって確認されたものなので,しかるべき注意を払ってこの情報を取り扱うべきである」

 私はもっと懐疑的な立場をとる。ヒズボラがイスラエルの無線通信を傍受できたとしても,その事実を報道メディアに伝えるはずなどない。反対に解読できる能力がヒズボラになければ,誤った情報を流すことはヒズボラの利益になる。

http://www.newsday.com/news/printedition/stories/...
http://www.theregister.co.uk/2006/09/20/...

Copyright (c) 2006 by Bruce Schneier.


◆オリジナル記事「Did Hezbollah Crack Israeli Secure Radio?」
「CRYPTO-GRAM October 15, 2006」
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◆この記事は,Bruce Schneier氏の許可を得て,同氏が執筆および発行するフリーのニュース・レター「CRYPTO-GRAM」の記事を抜粋して日本語化したものです。
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◆Bruce Schneier氏は米Counterpane Internet Securityの創業者およびCTO(最高技術責任者)です。Counterpane Internet Securityはセキュリティ監視の専業ベンダーであり,国内ではインテックと提携し,監視サービス「EINS/MSS+」を提供しています。