いよいよ10月24日,携帯電話の番号ポータビリティ制度が始まる。携帯電話の電話番号はそのままで事業者を変更できるこの制度の開始に向け,携帯電話事業者は準備のラストスパートに入った(関連記事1関連記事2)。

 今回の「番号ポータビリティ騒動」を追ううちに,三つの面から携帯電話事業者の戦略が見えてきた。番号ポータビリティ開始前夜にあたる今,それぞれのポイントを整理してみよう。

 一つめは法人メニューの充実である。2年前から携帯電話事業者の法人向けサービスを追っている筆者としては,このタイミングで法人向けのメニューを強化させたことに携帯電話事業者の本気度を見ている。法人メニューの動向については以前まとめた関連記事3をご覧いただきたいが,法人向けは一定規模のユーザー数をまとめて獲得できるだけに,今後も事業者間の争いは激化するだろう。

 二つめは,ユーザーの満足度向上が成功したこと。番号ポータビリティを意識してか,数年前から携帯電話事業者による既存ユーザーの満足度向上策が次々と登場していた。長期割引や家族割引などのメリットを打ち出すことで事業者を変更させないよう,外堀を埋める施策だ。

 この成果は携帯電話事業者の解約率として現れている。NTTドコモもKDDIも社長が最近の会見で,前年に比べて解約率が大きく改善したことを明らかにしていた(関連記事4関連記事5)。携帯電話事業者が進めてきた番号ポータビリティを踏まえた準備がしっかり実を結んだ格好だ。

 そして三つめは,料金競争が起こらなかったこと。ユーザーからの期待度が最も高かった部分だけに,筆者も肩透かしを食った思いがある。特にシェアが3位で,何らかの料金政策を打ち出すかもしれないと予測されていたソフトバンクモバイルが,料金競争を仕掛けなかったことが最大のポイントとなった。

 2004年の直収電話のスタート時,サービス開始前に日本テレコム(当時)とKDDIが値下げ合戦を繰り広げた。今回はこういった動きはなく,番号ポータビリティ直前の各社の発表は,端末の機種数や機能,サービス面での競争に終始した。かつてのマイラインスタート時に電話事業者は料金競争に陥り,収益を悪化させた経験を持つ。今回はその轍を踏まず,別の面に競争を求めたことになる。

 かつて「日本の携帯電話料金は高すぎる」と主張したソフトバンクですら,手を付けられなかった料金問題。次なる契機は,来年春に携帯電話事業に新たに2社が参入するタイミングが考えられるが,今回の各社の動きを見るかぎりドラスティックな変化は期待できない。

(松本 敏明=日経コミュニケーション 副編集長)

 10月20日に上記の記事を掲載後,10月24日の番号ポータビリティ開始前夜の10月23日に,ソフトバンクが料金競争にかかわる発表会を実施した。この点については分析を加えた後,何らかの記事で筆者の考えを述べる予定である。