ビフォー・ アフター

 家電メーカーの顔ともいわれるテレビ。テレビの売り上げで復活の兆しが見えてきているのがソニーである。2005年11月に投入した新ブランド「ブラビア」の売り上げが年末商戦を皮切りに好調なのだ。下支えしているのが、2004年5月に稼働したシステム「クローバー」である。投資額280億円をかけて、製造・販売・在庫などグループで情報共有できる体制を築いた。

 新システムの稼働で、量販店32社の在庫も見られるようになった。これまでソニーグループ内でも販売部門と製造部門で在庫を持ち、バラバラに管理していた。そのため在庫が膨れ上がり、人気商品は欠品の原因となっていた。クローバー導入と同時に、在庫を製造部門に一元化し、総在庫を把握しながら製造計画を立てられるようになった。これらの施策により、国内在庫を3割削減できるなどの効果が出始めている。


液晶テレビ「ブラビア」の製造ライン(ソニーイーエムシーエスの稲沢テック)と、主力製品であるKDL-40V2000  
液晶テレビ「ブラビア」の製造ライン(ソニーイーエムシーエスの稲沢テック)と、主力製品であるKDL-40V2000  

 「エレクトロニクスの復活なくしてソニーの復活はない。テレビの復活が不可欠だ」――。昨年9月に就任した中鉢良治社長はことあるごとにこう訴えてきた。ソニーのテレビはブラウン管が主流だった時代は強かった。しかし、液晶やプラズマなど薄型テレビ競争に入ると、シャープや松下電器産業などに押され、苦戦を強いられていた。

 そのテレビ事業に、復活の兆しが見えつつある。昨年11月に投入したブラビアが好調なのだ。2005年10-12月期には、世界の液晶テレビ出荷台数で首位に立った。国内でも年末商戦が好調で、しかも商戦の間、品切れを起こさなかった。

 下支えしたのが、2004年5月に導入したCLOVER(クローバー)である。280億円を投じて、製造や販売、物流に必要な情報を一元管理できる体制を構築した。量販店も含めた総在庫を把握することで、品切れや過剰在庫を防ぐ。システム導入と体制の変更により2005年度までに国内の在庫を3割削減し、今年度には業務コストを140億円削減する見込みなどの効果が表れ始めている。

 クローバーが対象とする商品は、ソニー製品全般に及ぶ。その中で、テレビで効果を発揮した意義は大きい。ビデオカメラなどは入学式シーズンに売れるなど需要は読みやすい。一方、テレビの年末商戦は需要予測が難しいと考えられていたからだ。

 年末商戦に向け、初秋から準備をしてきた。テレビを製造するソニーイーエムシーエス(EMCS)の稲沢テック(愛知県稲沢市)で需要予測を担当するチームと、販売を担当するソニーマーケティング(SMOJ)が今後を話し合うDAP(デシジョン・アジャストメント・プロセス)会議を週に1回開いていた。

 前年の推移と夏の商戦の売れ行きから、今年は昨年の倍の勢いで売れるとはじき出した。薄型テレビへの急速な需要シフトのほか、冬季五輪やサッカーのワールドカップなどが目白押しのため、「どう計算しても倍速で売れる」と見た。

●情報基盤を整備し、在庫を一元化することで3割削減へ
●情報基盤を整備し、在庫を一元化することで3割削減へ[画像のクリックで拡大表示]

顧客に十分な納期回答できず

 一方、量販店の在庫を見ると、クリスマスには枯渇する恐れがあった。量販店からの注文はまだなかったものの、急激に増えるという予測をはじき出した。「一気にアクセルを踏んで製造体制を強化する予測を出した」とSMOJビジネスプラットフォーム企画部の嶋田健秀統括部長は振り返る。12月中は毎日のようにEMSSとSMOJは議論を重ねた。稲沢テックから首都圏の量販店までは8時間もあれば納品できる。12月30日まで作り続けて一度も商品を切らすことがなかった。

 クローバーが必要だった背景には、ソニーは機能別に別会社でグループを形成していることがある。製造はEMCS、販売はSMOJ、物流はソニーサプライチェーンソリューション(SSCS)といった具合だ。EMCSはSMOJから「注文」を受けた数を納入する体制を築いていた。

 この体制が顧客に対して納期回答できないといった影響を及ぼしていた。SMOJがEMCSの製造計画や在庫量を把握できていないため、自らの在庫がなくなってしまうと量販店には「在庫無し。納期確認中」としか伝えられなかった。

 製造を担当するEMCSもこれまでの体制では課題を抱えていた。製造現場は作るだけで、SMOJや流通在庫がどの程度あるのかといった今後の推移を予測できる判断材料がなく、市場の動向を見ながら製造するという意識が欠けていた。そのため、需要がピークを迎える前に戦略的に在庫を積み増すといったことができなかった。人気商品に注文が集中すると欠品を起こした。