「通信と放送の融合」をテーマに掲げ,改革の大なたを振るった竹中平蔵氏が9月26日,政治の表舞台から身を引いた。竹中氏が,わずか1年の間に打ち出した方針は,2010年のNTT再々編の検討やNHKのインターネット進出容認,通信・放送分野の法体系の抜本的見直しなど多岐にわたる。

 竹中氏の通信・放送改革の中核を担ったのが「通信・放送の在り方に関する懇談会」。通称,竹中懇談会である。2005年12月から半年にわたり,大臣自らが議論に参加して,NTT再々編や通信・放送分野の法体系の抜本見直し,NHKのインターネット進出の容認といった数々の提言を報告書として取りまとめた。

 この報告書の内容は「通信・放送の在り方に関する政府与党合意」,さらには政府の経済財政運営の基本方針「骨太方針2006」に反映させた。また,竹中懇談会と同時並行で進めた「IP化の進展に対応した競争ルールの在り方に関する懇談会」(IP懇談会)では,通信分野の競争政策を全面刷新するロードマップ「新競争促進プログラム2010」を打ち出した。

放送業界への危機意識から懇談会はスタート

 竹中懇談会の開催を発表した当時,竹中氏は複数のメディアに露出し「なぜインターネットで『ポケモン』が見られないのか」という疑問を投げかけた。放送番組などの映像コンテンツの流通経路が,電波など特定の方法に閉じた状況は打開すべきと考えていたようだ。

 このため竹中懇談会は,当初「放送局を中心にした改革のシナリオを描いていた。不祥事が相次いでいたNHK改革も急務だった」(関係者)。一方の通信に対しては「十分に競争が機能し,世界一安くて速いブロードバンドが普及したという理解で始まった」(関係者)。

 だが実際の議論が始まると,「構成員からNTTを中心にした通信業界の問題を指摘する声が上がりだした」(ある構成員)。竹中懇談会の開始と時期を同じくして,NTT持ち株会社が「中期経営戦略」のロードマップを公開。グループ経営を目指す方針を明確にしたことで,競合事業者がNTTグループの“独占回帰”を非難し始めた。そこで竹中懇談会では,NHKを中心とした放送の論点と並んで,NTT問題が議論の俎上(そじょう)に上ることになった。

 さらに「NTTの組織を議論するうちに,競争政策上の問題が浮かび上がってきた」(関係者)という。甲南大学の佐藤治正教授は,「電話の時代の競争政策の整備は数年前に一段落した。だがネットワークが電話網からIP網へと移行し始めたことで,再びNTTの持つボトルネック性が顕在化した」と説明する。そこで懇談会はNTTの組織問題に加えて,通信分野の競争政策の全面刷新にも手を広げた。その成果が「新競争促進プログラム2010」というわけだ。

通信・放送改革のバトンは菅新総務相に渡された

 竹中通信改革は,まだ未完の状況にある。竹中氏自身も「この1年の議論は『道半ば』にも及ばない。『道に端緒を付けた』という状況」と語っている。これまでの議論はフレームワークでしかない。政策として実行に移していくのは総務大臣のバトンを受け取った菅義偉氏の役割になる。

 菅総務相は,竹中氏と二人三脚で改革を進めてきた前総務副大臣だ。「竹中氏が国会で追われている間は菅氏が奔走して政府・与党合意を取りまとめた人物」(関係者)である。既に菅氏は新内閣の就任会見で,「竹中氏と一緒に(改革の)方針を出した。今後はさらに進めていきたい。」と意思表明をしている。竹中氏のフレームワークを実行に移すことができるのか。改革の行方に注目したい。