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ビジネスを中心とした情報発信においてWebの存在意義が高まる中、Webコンテンツのアクセシビリティに関する日本工業規格であるJIS X 8341-3が発行されてから既に2年以上が経過している。Webサイトにおけるアクセシビリティの重要性が国内でも論じられるようになって久しい。とはいえ、そもそも「アクセシビリティとは何か」、「どうすればアクセシブルなサイトになる(または作成できる)のか」といった概論的な知識やハウツーは、Webサイトの制作に関わる人の間でまだまだ浸透していないように思われる。

特にディレクター、プロデューサーといった指揮系統を担当する人たちや、サイト(コンテンツ)のオーナーなど、直接実装に携わらないが、大きな権限を持つ層においては、言葉だけは知っているけれど、内容はなんとなくしかわからない、という人も少なくないようだ。また、プログラマーやエンジニア、デザイナーなど実装に関わってくる層であっても、自らの仕事との関連性を理解している人は、それほど多くないのではないだろうか。

そこで、本連載ではサイト制作に関わるさまざまなポジションにおける視点なども考慮しながら、アクセシブルなWebサイトを制作する作業工程において必要なノウハウを取り上げていきたいと思う。

第1回となる今回は「Webアクセシビリティとは何か」というテーマで、アクセシビリティという言葉自体の意味や、Webとの関連性について考えてみたい。

アクセシビリティとは
まずはじめに、「アクセシビリティ」という単語が本来何を意味するのか、原点に返って考えてみたい。アクセシビリティ(accessibility)は元々英語であり、元の形は"access"である。この「アクセス」という単語は既に日本語としても確立しているように、システムや装置に「接続する」とか、情報を「入手する」、または交通などの「手段」といった意味を持っている。この言葉に「可能」を表す"able"が加わったものが「アクセシブル(accessible)」という単語であり、つまり「アクセシブル」とは「アクセス可能である」「(情報などを)入手することができる」という意味になる。さらに、その名詞形が「アクセシビリティ」であり、すなわち「アクセス可能かどうか」「(情報などを)入手しやすいかどうか」という状態を表す言葉になるわけだ。

Webにおけるアクセシビリティ
さて、なんとなく言葉のイメージをつかんだところで、今度はこの内容を踏まえて、今回のテーマであるWebアクセシビリティとは何か、ということを考えてみよう。「アクセシビリティ」と「Webアクセシビリティ」の違いは当然のことながら、Webがつくかつかないかなわけなので、単純に考えると、「Web(上の情報)にアクセス可能かどうか」「Webから(情報などを)入手しやすいかどうか」ということになる。

ところでWebにおけるアクセシビリティというと、よく挙げられるのが、

音声ブラウザ(読み上げ)への対応
高齢者および障害者への対応
といったずいぶん限定的な意味合いに絞り込まれることが多い。これはいったいどういうことだろうか。

まず、前者については今あるWebサイトの多くが、制作者の環境を基準として作られてきた、という現実に起因しているものと思われる。というのは、音声読み上げ環境の存在を認識していなかった制作者が自らの環境(=目に見える情報)だけを頼りにサイト制作をおこなってきた結果、視覚障害者を主とする音声読み上げ環境からのアクセスを最も難しいものにしてしまった、ということである。その結果、アクセシブルなサイトを作る為には、音声ブラウザでも読めるようにする、ということだけが一人歩きしてしまったのかもしれない。

一方、後者については、冒頭で触れたWebコンテンツのアクセシビリティに関する日本工業規格であるJIS X 8341-3の影響が大きいものと思われる。たしかに、この規格の正式名称は「高齢者・障害者等配慮設計指針-情報通信における機器,ソフトウェア及びサービス- 第3部:ウェブコンテンツ」であり、「高齢者・障害者」に焦点が当てられていることに間違いはないだろう。とはいえ、「等」という文字が加わっていることも忘れてはならないと筆者は思っている。

音声ブラウザも高齢者も障害者もアクセス可能であり、情報を入手できるようにすることは、Webアクセシビリティを高める上で重要なことに間違いはない。けれども、多様化するWebの世界においては、狭い視野だけにとどまらず、もっとさまざまな環境からのアクセスを想定したサイト制作が必要ではないだろうか。そして、それを実現する為の行動こそが、「Webアクセシビリティの確保」ではないだろうか?

アクセシブルなサイトが生み出す利点を理解する
もちろん、ここまで述べてきた定義に関しては、答えがあるわけではないし、さほど重要なことではない。本当に大事なことはアクセシビリティに考慮する際の目的設定と、その結果として生み出される利点のについて考えることであろう。その利点は、送り手の「伝えたい」情報が、受け手に「伝わる」ことを確保し、本来の目的を見誤ることなくサイト制作が行われて初めて実現できる。さもないと最終的に全てが水の泡になってしまうことになりかねない。このことをプロジェクトに関わる全メンバーに常に意識してもらいたい。

次回は、この目的や利点といったところを中心に、アクセシブルなサイト制作の前に、何故アクセシブルなサイトを作るのか?という部分を考えてみたいと思う。