「携帯電話の法人市場はまだまだ成長する。番号ポータビリティ(MNP)はその大きな契機」と携帯電話事業者は攻めの姿勢を見せれば,「MNPの開始で最も恩恵を受けるのは法人ユーザー」と大手販売代理店幹部は口をそろえる。MNPの“真の戦場”は法人市場であることが次第に浮かび上がってきている。

 では企業の担当者は実際どのようにMNPをとらえているのか。その実態を把握すべく,日経コミュニケーションの読者モニターである日本国内の有力企業452社に対して緊急アンケートを実施した。

 メールによる告知でWebで回答する形を取り,最終的には238社の企業ネットワーク責任者から有効回答を得た。より実態に即した回答を得るために,MNPの手続き手順や手数料が明らかになっている時期を狙い,調査は9月12日から19日にかけて実施した。

 法人ユーザーだけを対象としたMNPの利用意欲アンケートは,各種調査機関でもほとんど行われていない。それもあって今回の調査結果は,MNP以降の法人市場の動きが見える,実に興味深いデータが得られた。今回と次回の2回でその結果を一挙公開する。

約7割の企業が法人契約,現状はNTTドコモが他社を圧倒

図1 携帯電話サービスを法人契約して社員に貸与している? (クリックすると画面を拡大)
図1●携帯電話サービスを法人契約して社員に貸与している?
図2 現在,法人契約している携帯電話事業者は?
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図2●現在,法人契約している携帯電話事業者は?

 まず携帯電話の法人契約とその事業者について聞いたところ,実に7割以上の企業が法人契約して携帯電話を社員に貸与している事実が浮かび上がってきた(図1)。もっともこの設問では,一部部署に限って法人契約している場合も「貸与している」にカウントしているため,全社的には個人契約の携帯電話が残っていることも考えられる。それでも約7割という数字は,事前の予想を大きく超えた。「セキュリティの観点などから,法人契約が増えている」という携帯電話事業者の言葉を裏付ける形となった。

 企業が法人契約している携帯電話事業者は,NTTドコモが他社を圧倒した(図2)。法人市場では個人ユーザー以上にNTTドコモのシェアが高いという結果となった。KDDI(au)が法人市場に注力し始めたのはモバイルソリューション事業本部を立ち上げた約2年半前のこと。ソフトバンクモバイル(旧ボーダフォン)がソフトバンクテレコムの法人営業部隊と一体化して営業力を強化し始めたのはこの10月からである。両社に先駆けて法人営業部隊を整備したNTTドコモが,法人市場をけん引している様子が見てとれる。

約3割の企業がMNPの利用意欲を示す

図3●MNPを利用して携帯電話事業者を変更する予定は? (クリックすると画面を拡大)
図3●MNPを利用して携帯電話事業者を変更する予定は?
図4●MNPを利用したい理由は?(複数回答,数字は社数) (クリックすると画面を拡大)
図4●MNPを利用したい理由は?(複数回答,数字は社数)
図5●事業者を選ぶ上で重視するポイントは?(優先度が高いもの二つを選択,数字は社数)
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図5●事業者を選ぶ上で重視するポイントは?(優先度が高いもの二つを選択,数字は社数)

 次に,法人ユーザー180社にMNP利用の有無を聞いたところ,「変更する予定である」と答えた企業はわずか2%だが,「とりあえず様子をみてから変更するかもしれない」と回答した企業は25%に上った(図3)。MNPの利用意欲を示す企業ユーザーは,合計で約3割となる。各調査機関による個人ユーザーの利用意欲が約1割であることを考えると,法人ユーザーのMNPへの期待の大きさをうかがわせる。

 MNPを利用したい理由については,「通話料などコストを削減したいから」「複数の事業者と契約しているため,それを一つにまとめたいから」という回答が大勢を占めた(図4)。これまでは,部署ごとに携帯電話を法人契約している企業も多く,全社の携帯電話の通信費が知らぬ間に増大するケースが見られた。そこでMNPを契機に社内の端末を1事業者にまとめ,法人契約する台数が増えるほど割引率が高くなるボリューム・ディスカウントを活用。これによって通信費削減につなげたいという狙いが見える。

 法人ユーザーが変更先の事業者を選ぶ上で重視するポイントとしては,「料金」が回答者の約9割を占めてトップ。続いて「通話エリア」「法人向けのサービス・メニュー」が上位を占めた(図5)。いずれも携帯電話サービスに求められる基本的な項目だ。企業ユーザーは,きちんと電話がつながり,しかも料金を抑えられるという,至極当然のことを事業者に望んでいる。

 次回は,MNPを利用したい企業ユーザーが変更先として希望する携帯事業者などに関する集計データを報告する。