1876年に電話を発明したアレクサンダー・グラハム・ベルは,人と人をつなぎました。ブロードバンド,ユビキタス時代となった現在では,コンピュータとコンピュータを高速かつセキュアに,そしてフレキシブルに接続することが求められます。
FTTHやADSLなどの有線系アクセス技術に加えて無線系アクセス技術が進展することで,どこにいても高速な通信環境が得られるようになりました。インターネットを用いて大容量の情報を発信したり,エンドユーザーがデータをセキュアに登録できるようになり,旅行の予約やショッピング,オークションなどのサービスが普及しています。つまりサービス提供者とユーザーの間で,情報ばかりでなく信用までも取引されるようになりつつあります。
こうした流れを育てていくためにも,これからのネットワークは,レイヤーごとのさらなる安全性の確保が不可欠です。
必要なときだけつなぐネットワークへ
最も安全なネットワークとしては,必要なときだけダイレクトにファイバをつなぐ形態が考えられます。このようなネットワークを経済的かつ効率的に実現するためには,アプリケーションに応じてオンデマンドで必要な地点をつなぐコア・ネットワークの仕組みが欠かせません。
図1は,これからの光ネットワークに求められる姿を三つの階層に分けて記した模式図です。最下層は,波長ごとのネットワークを仮想ファイバと見なしてデータを転送するプレーンです。当連載でも紹介した再構成可能な光スイッチを活用することで,必要なときだけ接続できるようにします。
図1 アプリケーションと連動した高速でセキュアな「オンデマンド」ネットワークの実現へ |
中間層は,要求された接続を異なるレイヤー間で確立するためのコントロール・プレーンです。レイヤー間連携プロトコルには,GMPLS(generalized multiprotocol label switching)*などが考えられます。
最上位層は,各層でのセキュリティの管理やサービスを統括するプレーンとなります。
光ネットワークを使った映画配信実験
これからの光ネットワーク実現に向けたフィールド・トライアルも始まっています。
米ワーナー・ブラザーズと東宝,NTTグループは2005年10月から,光ネットワークを使って米国から新作の劇場映画を4K(水平方向の解像度が約4000本)のデジタル・シネマで配信する実験を進めています(図2)。ロサンゼルスの映画制作スタジオから日本の映画館へ,新作映画を暗号化して運び上映するという試みです。
価値の高いコンテンツを光ネットワークで伝送するためには,各所でセキュリティを確保することが求められます。これは図1に挙げたネットワーク実現へのチャレンジとも言えます。ネットワーク提供側としては,アプリケーション・サイドと協調してネットワークを運用することも重要です。
今こそ通信基盤の活用を
日本は人口低減・少子高齢化時代を迎えています。こうした環境の中で世界一安くて速い通信インフラ基盤を手に入れたことは,大きなチャンスととらえるべきです。
例えばドイツ車は戦後50年を超える現在まで,その高速性と安定性の良さで世界をリードしてきました。これは時速200キロメートル超と60キロメートルが混在するアウトバーンという社会インフラ基盤が,ドイツにあったからこそだと想像します。
我が国も世界一となった通信インフラ基盤上で,英知を結集しトライアルを積極的に展開すべきと考えます。社会問題と正面から対峙し,ブロードバンド,ユビキタス・ネットワーク環境とアプリケーションの協調・連携によって情報通信技術そのものを継続的に鍛えていくことが求められるでしょう。
光ネットワークの進展が,これからも社会を支える中核的な役割を担うよう期待してやみません。
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