アイ・ティ・アール/METAグループ  金谷 敏尊 氏 金谷 敏尊 氏

アイ・ティ・アール METAグループシニア・アナリスト
大手ユーザー企業に対してIT戦略立案やベンダー選定などのアドバイスを提供する。ITインフラ,システム運用,セキュリティ分野を専門に幅広く活躍する。

 企業がシステム開発や運用を外部委託する局面でベンダーに提案を求めるRFP(提案依頼書)の手法は市場に定着したといってよいだろう。ソリューションプロバイダにとってRFPは案件獲得の絶好の機会だが、同時に競争にさらされることの通告を意味する。大規模案件においては十数社もの候補を相手に、1次、2次の選考に勝ち残らなければならない。並み居る競合を差し置いて良質の案件を手中にするのは、容易なことではない。

 提案を少しでも有利に進めるためにはRFPを提出した相手の事情を知っておきたい。最近は、雑誌などで特集されることもあり、RFPの一般的な評価基準はある程度予想できるようになってきた。評価基準を想定して挑めば1次選考を通過することはできるかもしれない。しかし、最終選考では、往々にして総合評価ではなく、意思決定者の判断に委ねられることになる。特に民間企業では、最終局面での合意形成は数名の幹部による合議制で行われ、しばしば重大な逆転劇も起こる。形式的な評価基準は、足切りの判断材料にはなり得るが、必ずしも最終決定を導くとは限らない。

キーパーソンの思いを知る

 最終選考を勝ち抜くベンダーは、どのような条件を持っているのだろうか。評価の局面には必ず発言力の強い評価者や意思決定者といったキーパーソンが介在する。筆者の経験でいうと、キーパーソンの真意を汲むベンダーは選ばれる傾向が強い。その際の判断軸は、必ずしもコストではないという点に注意が必要だ。課題解決の合理性、プロジェクトマネジャーの資質、企業の信頼性など、その時の方針や状況により千差万別である。

 一例を挙げよう。ある企業が計画した総額数十億円のデータセンターの業務委託では、最終選考に2社が勝ち進んだ。この案件に対して、1社の提示した見積りは予算の7割程度の価格と魅力的であった。ところが、最終的に委託先として選定されたのは高額な見積りを提示した方である。この企業では災害対策を主目的にデータセンターの見直しを図っており、当時不足していた遠隔レプリケーションでのバックアップを実現する技術をいかに補完するかが課題であった。このため、重責を負う意思決定者にとって、構築実績の充実度が評価の決め手となったのである。敗退したベンダーは実績に乏しく、プレゼンもコストメリットの訴求に終始していた。

 選定されるベンダーになるには、まずキーパーソンを特定し、その人が重視するキーワードを探すことをお勧めする。そして、総合評価で高得点を狙うのではなく、キーパーソンの視点から見た場合に必要と考えられる要件に重きを置いた構成で提案することである。そもそもRFPは作成に潤沢な時間をかけられず、課題や要件が未整理なものも少なくない。ユーザー側の真意が把握できなければ、限られた時間にRFPを読み込んで、徹夜で提案書作成に励んでも徒労に終わることもあるだろう。

 RFPを受け取った後、提案書の作成に充てられる時間はせいぜい2~3週間である。この期間こそが正念場ととらえられがちであるが、実際にはRFPを受け取った時点では勝負の半分がついているといっても過言ではない。それまでにいかに真の情報を得ることができるかにかかっているのである。