KDDI モバイルソリューション事業本部の湯浅英雄・執行役員事業本部長

 携帯電話の法人市場においてNTTドコモを猛迫しているのがKDDIだ。小野寺正社長兼会長が法人市場におけるMNP戦略を自ら説明するほどの力の入れよう(関連記事)。この7月には満を持して,NTTドコモのモバイル・セントレックス・サービス「PASSAGE DUPLE」対抗策と言えるサービスを投入した。無線LANと携帯電話のデュアル端末「E02SA」を使うモバイル・セントレックス・サービス「OFFICE FREEDOM」がそれだ。12月には法人向けに耐衝撃性を備えた法人向けのフラグシップ端末「E03CA」も出荷する。

 KDDIは,法人市場でトップシェアを誇るNTTドコモの牙城をどのように切り崩そうとしているのか。KDDI モバイルソリューション事業本部の湯浅英雄・執行役員事業本部長に,法人市場に向けた戦略を聞いた。

法人市場の現状は。

 昨年の携帯電話の法人契約は,対前年比で60%の伸びと急成長を遂げた。個人情報保護法の施行をきっかけに,端末を法人名義に切り替える動きが一気に顕在化したことが追い風になった。

 このような動きの中で,リモートで端末内の情報を削除できる「ビジネス便利パック」が評価された。これが金融機関などに受け入れられ,法人契約を増やす結果となった。他社と競合してもこのサービスがあるので勝てた。今となってはセキュリティ機能は基本だ。これがあるから売れるのではなく,これがないと売れない。NTTドコモも最近になって同様のサービスを出してきた。

MNPの影響は。

 MNPの開始によって,社内で複数事業者の端末が混在している状況を1社にまとめる動きが顕在化するだろう。品質と安心できる料金体系をベースにソリューション提案すれば,その1社に必ず選ばれると考えている。

 我々は名前の通り“モバイルソリューション”をユーザー企業に提供することを徹底してきた。「もしもしはいはい」の音声通話だけでは勝負しない。「こういった業務上の問題を,携帯電話で解決できる」という提案で戦う。

 MNPが始まることはチャンスだ。これまではソリューションも含めて携帯電話を利用している法人ユーザーは1割にも満たないと考えている。だからこそソリューションをしっかりと提案し,新しい携帯の使い方を説明できる,我々に勝機があると考えている。

 料金勝負はしない。いくら料金が安いと言っても,それだけでは法人ユーザーには相手にされない。安かろう悪かろうと見られるだけだ。その点マイラインとMNPは全く違う。

 我々はユーザー企業の声を熱心に聞いているという自負がある。企業ユーザーの意見を取り入れ,法人向けに新しいサービスや端末をどんどん出している。例えば法人向けの端末として,5時間20分という長時間通話ができる「B01K」,無線LAN対応の「E02SA」,耐水・耐障害性を持たせた「E03CA」を用意した。

ユーザー企業が最も気にしているのは,ソリューションではなくコスト削減だが。

 業務に役立つような携帯電話の新しい使い方が,まだ企業の間で十分に理解されていない可能性がある。ただ2年前(モバイルソリューション事業本部を立ち上げた直後)と今は環境が異なる。景気も回復し,携帯電話をコストではなく,設備投資ととらえるユーザー企業も増えている。

 料金勝負しなければ獲得できないユーザー企業は,その場では勝負はあきらめるかもしれない。しかし,そのユーザー企業とのお付き合いは継続する。その間にさまざまな情報をつかみ,あたかも社内の打ち合わせのようにユーザー企業に提案を繰り返す。これまでも1年2年かけて契約にこぎ着けたケースばかり。いずれ我々の良さを分かってくれる時が来るだろう。

 我々が法人契約したユーザーの半分はソリューション込みの導入だ。こうなると解約率がとても低くなる。ユーザー企業は長い時間をかけて導入に至るため,簡単には解約しない。ソリューションは囲い込みの強力なツールとも言える。一方,料金勝負をすれば,安い料金が出た際に簡単に乗り換えられてしまう。法人市場を攻めるには,時間がかかることをいとわないことだ。

モバイル・セントレックスのメニューも拡充している。

 今年から来年にかけてモバイル・セントレックスがブレークするだろう。手応えは十分感じている。我々は1000人以上の大規模拠点のために「OFFICE WISE」,中小規模拠点向けに「OFFICE FREEDOM」,さらに小規模な営業所向けに「ビジネス通話定額」と,3種類のサービスを用意した。

 モバイル・セントレックスの市場は潜在的に非常に大きい。企業で携帯電話を貸与しているのは,外出が多い一部の社員に対してだろう。我々の調査では,全社員の約3割が貸与の対象になっているという結果だ。しかしそれが内線システムとなると全社員に入ることになる。一気に台数が増え,同一企業だけでも市場は3倍に広がる。また内線システムとして導入すれば,そう簡単に他の携帯電話事業者へは変更しないだろう。だからモバイル・セントレックスは究極の囲い込み策とも言える。