ケース1と同様に,生活化学製品メーカーK社からベンダーY社が工場のシステム開発を受注し,Y社のA氏がプロジェクト・マネジャーを務めるという設定である。

 ただし,顧客の布陣がケース1とは異なる。ケース2において,最終的にプロジェクトにゴーサインを出したのは,K社の取締役・統括本部長のS氏だ。だがプロジェクトを実際に仕切っているのは別の人間である。K社内で最初に工場のシステム化を提案したN工場・工場長のW氏だ。

 S氏は最初の打ち合わせの席で,A氏にこう伝えた。「私はどちらかというと,“金は出すが口は出さない”主義なんだ。予算内に終ってくれればそれでいい。W君と連携を取りながら頑張ってほしい」(図3)。「プロジェクトは現場主導の方がうまくいく」と考えていたA氏にとっては,願ったりかなったりの状況となった。

図3●「ケース2」においてプロジェクトに積極的に関わろうとしない顧客側の責任者
図3●「ケース2」においてプロジェクトに積極的に関わろうとしない顧客側の責任者
システム化の提案者である発注窓口のW氏はプロジェクトに熱心に取り組むが,責任者(後ろ盾)のS氏は腰が引けている。このプロジェクトではW氏が先走っており,全社的なサポートを得られていない

 プロジェクトは上々の滑り出しで始動した。S氏が打ち合わせの場に同席することは,ほとんどなかった。だがA氏にとっては,その方がありがたかった。窓口のW氏は革新の意気にあふれた人物で,システムについてもかなり詳しい知識を持っている。ときにはW氏が技術に関して鋭い指摘をし,緊迫する場面もあったが,A氏はむしろ技術論を闘わせることを楽しんでいた。

 プロジェクトは大きな問題もないまま,設計から製作・運用試験へと進んだ。工程遅れはわずか2日。設計書でうたった要件はすべて満たしている。後はユーザーへのオペレーション指導を兼ねた運用試験をクリアするだけとなった。

 だがその段階で,思いもかけない事態が発生した。運用試験の当日,久しぶりにS部長から電話がかかってきたのだ。「君,このシステムは使えないよ。工場長たちが,『我々が要望している機能がない』と言っている。なんでも△△△とかいう機能らしい。話が違うじゃないか!」

 A氏はあわてて答えた。「いや,その件については,別画面で処理するということで,Wさんと合意ずみです。工場の方々には,日次処理が終了したのち,○○○の画面で実行してくださいとお伝えください」。

 A氏は,すぐにW氏に連絡を取った。するとW氏は「いや,ウチの工場では,Aさんと決めたやり方でまったく問題ないんだけど,工場によって事情が違うから…。S部長には,ウチの工場でとりあえず運用してみて,工場ごとにカスタマイズしていくと話したんだけど,よく分かっていなかったみたいだな」と答えた。

 「他の工場長は,その件について了承ずみなんですか」とA氏が尋ねると,W氏はいきなりトーンダウンした。「いや,了承はしていないんだ。工場同士は,意外に連絡が密じゃなくってね。そのあたりは,本社のS部長がやってくれると思っていたんだけど」。W氏の「先走り」ぶりに愕然とするA氏だった。

(次回へ)

梅村 正義 (うめむら まさよし) イプセ 代表取締役
1959年生まれ。関西大学商学部卒業後,日本リクルートセンター(現リクルート)入社。HRM室,組織人事コンサルティング室などを経て99年にイプセを設立し,代表取締役に就任。組織,人事,人材育成を中心としたコンサルティング活動を展開している。著書に「プロマネの野望」(翔泳社/鎗田 恵美,秋山進と共著)がある