今回のポイント
・データが入ってくる経路について知っておく
・データベース導入で何が変わるのか

 Web+DBサイトの構築で最初にするべきことは「全体を俯瞰(ふかん)する」ということです。システム・インテグレータ(SI)やプログラマと営業交渉を行う前に,まず自社サイトにデータベースを導入して何をしたいのかというイメージを漠然とでも用意しておく必要があります。

 ここで,非エンジニア,特に技術に疎いWebマスターの方にアドバイスです。技術者との初交渉の席では,「コーポレート・カラーは赤なので,それを取り入れたページ・デザインにしてほしい」「競合他社がやっているように,マウスカーソルのところにアニメーションを出してほしい」といった,細かい注文をすべきではありません。

 こういった細かい注文は,完成したシステムをクリスマス・ツリーだとすると,もみの木の大きさが決まらないうちに,装飾品の選定から始めてしまうという愚行に相当します。Webデザイナーには怒られてしまうかもしれませんが,Webプログラマの立場で見ると,大切なのは飾りの下のもみの木です。

 そこで今回は,そもそもサイトとデータの関係はどうなっているのかということを考えてみましょう。

データはどこからやってくるのか

 データベースを理解するうえで,まず「データとは何か」「それはどこからやってくるものなのか」を考えてみます。企業Webサイトの場合,データの発信元は大きく次の三つに分類できます。

図1 データは三つの経路から入ってくる
図1 データは三つの経路から入ってくる

●管理側能動データ
 ECサイトを例にすれば,商品情報がこれにあたります。どんな商品があり,価格はいくらで,画像はどれで,説明はこれこれといったデータ群です。システムによってはトップページに表示するトピックスや,ニュース・リリースなども自社側からサーバーに対して送り込むデータです。

 また対外向けサイトではなく,支社/部署間利用限定のサイト,社内システムのサイトでは,社員名簿などのデータも自社担当者側から登録されるデータとなります。

●ユーザー側能動データ
 ユーザーがサイトを閲覧した場合に,フォーム画面から入力するデータです。ここではユーザーが能動的に入力し送信したデータを「ユーザー側からのデータ」と呼称しておきます。

 一度登録したデータは,ユーザー自身ならば編集できるという場合もあります。何らかのユーザー登録を行った場合,そのサービスからの退会や,登録したメールアドレスの変更などは本人であれば可能でしょう。この場合も,もともとユーザー自身が登録したデータに対してだけアクセスできているわけで,管理側からのデータと区別しておきます。

●非能動/準能動データ
 いわゆるログのたぐいです。管理側から登録したものでも,ユーザーがフォームで入力するものでもありません。勝手に記録されていくものです。

 例えばユーザーが使用しているブラウザ(UserAgent)を記録する,ページ移動導線を確認するためにアクセス解析を仕込むといった形で記録されます。管理画面へのログインで,アクセス時間やログインに使用したIDやパスワードを記録しておき,クラッキングの痕跡がないかといった確認にも使用されます。

 ――以上3種類の方向からデータが来ることを,必ず理解しておきましょう。データベースというのは器(うつわ)にすぎず,器を満たすには何かを盛り込む必要があります。最初から満たされている器は存在しません。Web+DBシステムを考える場合,自社サイトはどんな情報を扱うのか,それぞれのデータは誰の手によってデータベースに入れられるのか,おおよそのイメージを作っておかなくてはなりません。

データベースの導入で何が変わるのか

 データベースをまったく使用していないサイトが,データベースを導入したときにどんなメリットが発生するのか,ざっと列挙しておきましょう。

●数十~数万ページを一気に作成できる
 一気に作成といっても,「思いのままに自由な内容で」ということではありません。例えば,価格,商品名,写真画像,説明…というデータの集まりから商品説明の定型ページを生成できるといった意味です。データが10件あれば10ページ,5万件あれば5万ページ生成できるわけです。データベースを使用しないで専門のWebデザイナーに依頼すれば,仮に10ページ程度であっても,ページ単価で20万円前後の作成経費とそれなりの作成期間が必要となります。

図2 Webデザイナー型更新とWeb+DBシステムでの商品追加の比較
図2 Webデザイナー型更新とWeb+DBシステムでの商品追加の比較

●追加/差し替え/削除/修正が容易
 Web+DBで動的にページを生成するシステムでは,データベース内のデータに対して変更を加えるだけで,生成されるページの編集や削除,追加を簡単に実行できます。該当するHTMLファイルがどれかを探し,内容を書き換えてアップロードし直したり,不要になったHTMLを削除して,そのHTMLにリンクしている場所を探してはリンク部分を削除して…といった煩雑な作業は必要ありません。作業時間は大幅に短縮でき,リンクの設定ミスのようなオペレーション・ミスも回避できます。またFTPなどのネットワーク関連の知識が不要になるため,専門担当を育成,維持する必要もありません。

●データの収集/管理が容易
 例えばメールマガジンを発行しているケースで,外部のメールマガジン・サービスを利用していなかったとすると,担当者は申し込みメールを一通ずつ確認し,表計算ソフトなどで記録/管理し,メールマガジン発行時には登録者をBCCに記入して…といった作業を行う必要があります。

 しかしデータベースで管理すれば,重複したメールアドレス(多重登録者)の回避,不達だったアドレスの削除なども簡単にできます。アルファベット順あるいは登録時期順でソートしたデータのエクスポートや,プロバイダごとの統計なども簡単に取れます。

 最大のポイントは,これまでMicrosoft Excelなり帳票なりWebなりにバラバラに管理されていたデータが,一元的にサイトのデータベースに蓄積され,管理できるようになるという点です。保管場所が散在しているデータは同期が取れず,何を「正」とするべきかがあいまいで,担当者不在の場合は,ビジネスそのものを止めてしまうといった弊害を引き起こします。ビジネスを足踏みさせないためには,絶対不変の「正」データを持つことが極めて重要になるというわけです。

●データを具体的にイメージする
 ビジネスにおいて管理とは――ビジネス書で昔から言われているように――自社にかかわる「人」「物」「金」の流れを掌握しコントロールすることです。

 ユーザーからメールアドレスだけを集めるのも,それは立派な「人」の要素です。ユーザー側からの情報を収集しない場合には「人」の要素が抜けるように見えますが,管理画面でのログインは一般的にID/パスワードを利用することとなり,仮にID/パスワードが一つしかなくて複数社員で使いまわしたとしても,「管理者」という権限をコントロールすることになります。

 また「物」は物体には限定されず「情報」であることもあります。例えば新聞社のサイトでは記事は物体ではなく情報ですが,情報は立派な商品であり「物」です。ホテルのサイトであれば特定日の空室状況が「物」にあたるでしょう。ECサイトであるかどうかにかかわりなく,「物」を扱わないWeb+DBサイトは存在しません。逆に言えば,「物」を扱わないのであればWeb+DBサイト化する必要性はありません。

 サイトの場合には直販や企業間取り引きを行わなければ「金」の部分は含まれないことがあります。サイト管理の作業労力や担当者の賃金,サーバーの運用費用は「金」ですが,これはサイトそのものが管理すべき内容ではありませんので,無理矢理こじつけて「金の管理だ」とは言えません。

 Web+DBサイト構築を検討するうえで,自社のビジネスをどうデータに置き換えるかを必ずイメージしてください。どんなデータがあるか,それは誰が蓄積していくデータなのかを考えることで,自ずとシステムの全容が俯瞰(ふかん)できるようになります。

 冒頭のたとえ話に戻るなら,クリスマスツリーを庭に作るには,庭の規模を考え,植樹すべきもみの木の大きさを考えなくてはなりません。庭にもみの木を植えたときのイメージを頭に作り,それを俯瞰(ふかん)して想像することが一番大切です。