前回まで,正規の請負と実質は派遣である偽装請負をどのような基準で区別するか,偽装請負とならないためにはどのように対応しなければならないのか,について説明してきました。

 一応の説明をしたつもりだったのですが,読者の方から次のような質問がありました。

業務委任契約で客先に常駐するSEは,法律的にどのように扱えばよいのか

 この質問に対する回答は,結論としては「請負の場合と同じです」になります。しかし,請負契約と委任契約は違うじゃないか(実際に違います)ということで,上記の質問が出てきたのだと思います。また,偽装請負と正規の請負との区別基準として紹介してきた厚生労働省の「労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準」(以下「区分基準」といいます)も,「請負」という言葉を使用しています。このため,請負に「委任」は含まれないのではないか,という疑問をお持ちになったのでしょう。

 偽装請負の問題で話が分かりにくいのは,実はこの用語の問題かもしれません(注1)。実は,請負と委任の違いという説明での「請負」と「偽装請負」の問題で取り上げる「請負」は,微妙にニュアンスが異なります。今回はこのあたりの違いと合わせて,以前に解説した下請法との関係も整理してみたいと思います。

 請負,委任,派遣とも,企業において第三者たる他人の労務を利用するということでは一致しています。そこで,何が違うのかを基本に戻って確認してみたいと思います。

民法上の請負と委任(委託)の違いは契約内容が「仕事の完成」かどうか

 民法(契約法)における請負と委任の定義は,次のようになります。まず,請負は「請負人が仕事を完成し,それに対して注文者が報酬を与えることを約束することで他人の労務を利用する契約(民法632条)」です。これに対して,業務委任契約,業務委託契約といったいわゆる委任は「法律行為ではない一定の事務を処理することを相手方に委託し,相手方がその目的の範囲内である程度の自由裁量の権限をもって,独立して一定の事務処理行うことを承諾し,その対価としての報酬を支払うという形で労務を利用する形態(準委任,民法656条・643条)(注2)」です(なお,正確には準委任ですが,これ以降,単に委任といいます)。他人の労務を利用する点で共通していますが,大きな違いは,仕事の完成が契約の内容となっているかです。

 契約が請負であると判断されると,原則として仕事が完成しないと報酬がもらえません(例えばプログラムが完成)。これに対して,委任の場合には,プログラムの完成等とは無関係に,契約内容に従って報酬金額や支払時期が決まってくることになります(例えば毎月作業時間あたりの単価を支払う)。これ以外にもいろいろな違いがあるのですが,このような法的な効果の違いを説明するために,請負,委任といった区別をするわけです。

 このような請負や委任といった概念は,民法に定めがあります。民法は,請負や委任以外に売買等の13種類の契約類型を定めていて,これらを典型契約といいます。もちろん契約自由の原則というのがあって,強行法規などに違反しなければ自由に契約できます。従って,この13種類の典型契約以外の契約も認められます。請負,委任等の典型契約は,その名の通り典型例を定めることによってそれ以外の契約の参考になるものとして,いろいろな定めが置かれているに過ぎません。

 結局のところ,請負か委任がという議論は,契約内容を確定するための話であって,実態がどうかということは基本的に考慮しません。図1でいう,赤い線で示した部分を区別する基準が何か,という話なのです。

図1●民法は契約確定のために請負と委任を区別するが実態は考慮しない
図1●民法は契約確定のために請負と委任を区別するが実態は考慮しない

 これに対して,「偽装請負かどうか」の議論(区分基準)の請負は,労働者派遣法や職業安定法違反になるかどうかの基準です。労働者派遣法や職業安定法というのは,労働者を保護するための法律という位置付けになります。契約内容とその効果をどう見るべきかという民法の目的と,どのように労働者を保護すべきなのかという労働者派遣法や職業安定法の目的は違います。「請負」という同じ言葉を使っていたとしても,民法と労働者派遣法,職業安定法との間でその内容,概念は違ってくるのです。

 労働者派遣法や職業安定法の区分基準における「請負」では,労働者を保護する観点から,事業の独立性があるかという実態からその区別を考えています。派遣法以外の労働者供給を禁止する,派遣法の脱法行為となる行為を排除するという観点から,「請負」の範囲を考えています。法律の目的が違えば,概念も違う意味を持ってくるということなのです。

 民法上の請負か委任かは,原則として,契約書の題名や,契約書の文言がどうなっているかを判断しますが,委任(委託)契約であっても,区分基準の「請負」概念に含まれない部分は,偽装請負となり得ます。図1のように,請負,委任,その他の契約類型とも区分基準の「請負」となって適法である場合もあれば,偽装請負(正確に言えば労働者派遣法や職業安定法違反となる,請負,委任,その他の契約)と判断される場合があります。

 最初に触れたように,「偽装請負」に「委任」は含まれないのではないか,という疑問はもっともなのですが,結論的には厚生労働省の「労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準」にいう「請負」には「委任(委託)」も含まれます。

 業務委任契約で客先に常駐するSEについても,この区分基準に基づいて事業の独立性が求められ,独立性がなければ偽装請負(偽装委任?)であるということになります。従って,この連載の2回目3回目で説明したことは,委任契約という形を取ったとしてもそのまま妥当します。委任契約であっても,偽装請負にならないためには独立性を確保する,あるいは実態に合わせて派遣法上の派遣として扱う等の対応が必要なのです。

下請法(請代金支払遅延等防止法)との関係

 次に下請法と請負,派遣の関係を説明します。下請法は,取引当事者となる事業者間の資本金の額に一定の開きがある場合で,IT分野であれば,取引が「情報成果物作成委託」,「役務提供委託」に該当する場合に適用されます。詳しくは,当連載の下請法の回を参照してください。

 「情報成果物作成委託」は,ソフトウエアの作成,「役務提供委託」は,サポートサービスの提供等が該当します。「情報成果物作成委託」は情報成果物という限定はあるものの,おおむね民法上の「請負」に近いものです。「役務提供委託」も委任あるいは委任類似の契約と言えると思います。

 まず,偽装請負が問題となる,様々な情報成果物の作成(コーディング作業等)業務の支援を行う場面を考えてみます。ここでは,特定のソフトウエアを開発するために発注者の社内に常駐している場合を,ひとまず除外します。

 労働者派遣法に基づく派遣の場合には,下請法の適用はありません。では,派遣以外の場合で,常駐する際の契約が業務委任契約であった場合はどうか。この場合,特定のソフトウエアの完成を目的としていないので,民法上の請負ということは言えないかもしれませんが,下請法上は,情報成果物作成委託に該当すると判断されています(注3)。契約書の名目ではなく,実質的にソフトウエアを開発しているという実質に着目して考えているわけです。

 それでは,偽装請負にあたる場合に下請法の適用はあるのか。おそらく,契約等が請負,業務委託契約といった形を取っていることと,ソフトウエアを作成しているので情報成果物作成委託である,として下請法の適用はあるのではないかと思います。この点は,「偽装請負なんだから,請負ではない。だから,下請法の適用は無いんだ」という言い逃れはできないでしょう。

 偽装請負の場合,下請法で要求されている書面の交付などもいい加減にされている可能性が高いと考えられます。そうなると,下請法違反と派遣法違反のどちらにも問われかねません。

 これらの関係を整理すると図2にようになるかと思います(無理矢理図にしていますの,ご参考までに)。

図2●下請法,民法,派遣法の関係
図2●下請法,民法,派遣法の関係

 下請法と偽装請負は,直接的には関連はありません。法律の目的も違います。しかし,偽装請負排除の枠組みは,派遣以外の就労形態を適正な請負(下請け)にさせます。下請法は下請事業者(企業)の保護を通じて,下請事業者の労働者を間接的に保護します。その意味で,どちらもSEの保護を図る役割を持っているように思います。

 以上,形式的な契約の名称等は,偽装請負や下請法の話とは直接関係ない,それぞれの法律により概念が違うので,似ているけれども範囲が違うのだということだけ理解していただければば良いかと思います。

(注1)これと同じく,IT関連企業の方が「派遣」といわれるとき,労働者派遣法に基づく「派遣」のことを指しているのか,客先常駐型の就労形態(場合によれば偽装請負)を指しているのかよく分からないことが多いようです
(注2)「法律行為」を委託することを委任(民法643条)といい,法律行為でない事務を委託することを準委任(民法656条)といいます
(注3)詳しくは,情報サービス産業協会の「システム開発業務支援に係る経常的な業務委任契約(いわゆるSES契約)の,「改正下請代金支払遅延等防止法」における取り扱いについて」を参照してください


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■北岡 弘章 (きたおか ひろあき)

【略歴】
 弁護士・弁理士。同志社大学法学部卒業,1997年弁護士登録,2004年弁理士登録。大阪弁護士会所属。企業法務,特にIT・知的財産権といった情報法に関連する業務を行う。最近では個人情報保護,プライバシーマーク取得のためのコンサルティング,営業秘密管理に関連する相談業務や,産学連携,技術系ベンチャーの支援も行っている。
 2001~2002年,堺市情報システムセキュリティ懇話会委員,2006年より大阪デジタルコンテンツビジネス創出協議会アドバイザー,情報ネットワーク法学会情報法研究部会「個人情報保護法研究会」所属。

【著書】
 「漏洩事件Q&Aに学ぶ 個人情報保護と対策 改訂版」(日経BP社),「人事部のための個人情報保護法」共著(労務行政研究所),「SEのための法律入門」(日経BP社)など。

【ホームページ】
 事務所のホームページ(http://www.i-law.jp/)の他に,ブログの「情報法考現学」(http://blog.i-law.jp/)も執筆中。