◆今回の注目NEWS◆

◎窓口業務 足立区が民間委託(Sankei Web、9月30日)
http://www.sankei.co.jp/local/tokyo/060930/tky003.htm
◎足立区における公共サービス改革の推進に関する条例(東京都足立区)
http://www.gikai-adachi.jp/honkaigi/gian2006/pdf/H183TG099.pdf

【ニュースの概要】9月29日東京都足立区の「公共サービス改革の推進に関する条例」が議会で可決さ れた。この条例では、住民票発行なども含め、窓口業務を民間の人材派遣会社に委託 するとしている。ただし、住民票の写し発行といった業務は「公共サービス改革法」 では規定されていない。


◆このNEWSのツボ◆

 足立区で、公共サービスを公開競争入札により、民間への委託も可能とする条例が 成立した。この条例によれば、対象となる業務は、

  1. 施設の設置、運営、又は管理等の業務
  2. 窓口に置ける相談等の業務
     (注:各種報道によると、住民票の写しの交付なども含まれるとされている)
  3. 研修、調査、若しくは、研究、又は、庶務関連等の業務
  4. 上記の他、その内容に照らして必ずしも区が実施する必要のない業務
とのことである。

 住民票の写し交付まで民間委任できるとなると、個人認証業務や、住基ネットの整備を 行う際に、「住民票の写しの交付は自治体の固有業務である(確かに、住民基本台帳法にその 旨の規定が存在する)」としてきた説明と一体どのような関係になるのか? という 疑問もあるが、おそらく、民間に委任しても、責任は自治体の責任において実施する ということになるのだろう。

 この方針は、ある意味、当然と言えば当然かもしれない。今月初めには、市場化テ ストで年金保険料の徴収において、民間企業の方が低コストで実現できたという報道 もあった。

◎年金保険料徴収、民間が低コストで達成・市場化テスト(NIKKEI NET、10月1日)
http://www.nikkei.co.jp/news/keizai/20061001AT3S3000Y30092006.html

 こうした状況を考えれば、「無駄にお金を使わなくとも、安いコストで効率的な業 務が実施できる」のであれば、民間に任せる方が、財政縮減にも、また、民需の刺激 にもプラスであろう。

 ただ、こうした決定を行うときに、一つ重要なのは、上にも書いたが委託事業に関 する責任関係を明確にしておく…という点である。正直に言えば、多くの事業が民間 委託されるようになると、そこでは、不始末も発生するはずである。例えば、相談窓 口の情報が流出するとか、施設の管理が不十分で事故が起きる…といったケースであ る。

 より具体的に言えば、昨年末に大きな問題になった耐震強度に関する建築確認の問 題であるとか、今年の夏に問題となった公営プールの運営管理の問題などが典型的な 例である。

 しかし、こうしたケースは、「運営を民間に委託した」ことが悪いのではない。 「運営を適切でない民間機関に委託した」ことが悪いのである。不幸な事故が起きる と、「民間任せにしていたのが悪い」といった論調が時々見受けられる。だが、だか らといって、これを再度お役所の仕事に任せれば、事故も起きないし、問題も発生し ないのかと言えば、決してそのようなことはないはずである。

 重要なことは、「十分審査して入札するのだから不具合など発生するはずがない」 という建前論でとどまるのではなく、「不始末は確率的に発生する」という事実を受 け止めた上で、どのような責任体制、リスクマネジメントの仕組みを構築するかであ ろう。

 今回の足立区の試みがどのような成果を生んでいくのか…注意深く見守りたい。

安延氏写真

安延申(やすのべ・しん)

通商産業省(現 経済産業省)に勤務後、コンサルティング会社ヤス・クリエイトを興す。現在はウッドランド社長、スタンフォード日本センター理事など、政策支援から経営コンサルティング、IT戦略コンサルティングまで幅広い領域で活動する。