マッキンゼーアンドカンパニーのアソシエイト プリンシパル 萩平 和巳 氏 萩平 和巳 氏

マッキンゼーアンドカンパニーのアソシエイト プリンシパル
商社,IT企業を経て入社。IT戦略やITガバナンスの策定などを支援すると共に,ITベンダーに対してもコンサルティングを行っている。

 ITと通信の融合(ICT)の進展により、ネットワークとコンピュータハード、ソフト、そしてBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)といったサービスまでもが、ユーザーから見てシームレス化しつつある。NGN(次世代ネットワーク)時代になれば、認証・課金、帯域管理など通信事業者のインフラ機能が利用できるようになり、情報システムのユーティリティ化が進展する。一部のユーザーを除き、システム開発は過去の話になり、ネットワークからBPOまですべてのレイヤーでコモディティ化が進むだろう――。

 前回(8月30日号)、ICTとNGNがITビジネスにもたらすインパクトについて述べた。では、すべての製品、サービスがコモディティ化する時代に、十分な利益を上げられるビジネスは存在し得るのか? 答えはYesである。

 運用やNGNの機能で補完することで、可用性の高い高価なサーバーやストレージを安価な製品で代替し、SIや運用コストも費用と価格の見合った複数のサービスレベル設計やコンフィグレーションの活用で低減する。こうしたレイヤー縦断の付加価値・コストの最適化によって利益を上げられるよう、ITベンダーの工夫が進むであろう。

 しかし、レイヤー縦断の取組みを自社で完結できるほど、広い事業領域を持つのは、富士通程度に限られる。必然、通信事業者も含め、ベンダーが協業し、レイヤー縦断の最適モデルを構築していかなければならない。留意すべきは、レイヤーを縦軸に、顧客提案→提供→運用→サービス管理というビジネスシステムを横軸に見たとき、縦横軸のどの部分を、どのベンダーが担うのかをよく設計する必要があるということだ。

 例えば、横軸のうち、顧客ニーズを把握してサービスを提案する営業機能やアカウントマネジメント機能を提供するベンダーが考えられる。一方、縦軸のうち、サービスの肝となるレイヤーのコア技術を押さえ、サービス提供に不可欠なプレーヤーになるようなベンダーもあり得る。

 いずれにせよ、ベンダーは自社のコアコンピタンスを見極め、それをコンポーネントとしたレイヤー縦断のサービスモデルを検討する必要がある。そして、そのための協業体制を構築することが、今後の展開に不可欠となるだろう。

 その際に主要なプレーヤーとなり得るのは、1)顧客提案の前段、およびサービス管理プロセスで顧客へのタッチポイントを持つプレーヤー、2)サービスの全体最適化、スケーラビリティを追求できる運用ノウハウやハイスケールのインフラを持つプレーヤー、3)サービス差異化の肝となるコアコンポーネント(業務アプリケーション、または業務ノウハウ)を有するプレーヤー――である。

 このように考えると、カバレッジの広い顧客基盤とデータセンターなどのインフラを有する大手ベンダーはもちろんのこと、顧客への広いタッチポイントとインフラ、課金など顧客との継続的関係を有する通信事業者、さらにキラーアプリケーションを持つISV(独立系ソフトベンダー)や特定業務領域にフォーカスしたブティック型の業務サービサーなどが有力プレーヤーとして考えられる。今後、こういったプレーヤーを中心に、複数企業が協業する体制の構築が進むであろう。