■商談や会議・ミーティングにおける上手な会話の仕切り方について解説する「会話を仕切る編」第4回。営業場面ではこちらの言うことに対して、ネガティブな疑問やダメ出しをされることがあります。そんなとき、ムキになって反論するのはスマートではありません。どうすれば上手に反論しながら、会話を自分のペースで運べるのでしょうか。
営業場面で、自社の製品やソリューションのアピールポイントを一生懸命説明する。提案書をプレゼンテーションする際に、精一杯の思い入れを持って熱く語る。しかしそんなとき、こちらの勢いにまるで水を差すかのように、
「そんなこと言っても、実は性能に問題あるんじゃないの?」
「本当にそんな効果あるの?」
とお客様からなんとも冷めたツッコミをされることがある。
商談においてネガティブな疑問やダメ出しは付き物だ。こちらからすると、重箱の隅をつつかれる思いでも、お客様からすれば細かい疑問でも解消しなければ気が済まないのは当然だ。
トラブル対応の場合、多少理不尽な物言いであっても黙ってやり過ごすこともあるが、こと商談となれば黙って相手の主張をそのまま認めるわけにはいかない。上手に反論しなければならない。
Yes But法は当たり前だが
よく営業トークのノウハウでは「Yes But法」というのを聞く。商談における反論の定石だ。 相手の発言を真っ向から否定して反論するのではなく、「よく分かります。しかし・・・」という風にまずは同意を示して反論するというやり方だ。
しかし実際の使われ方を見ると、「Yes But法」は、「なるほどそんな考え方もありますね。しかし・・・」というように相手の考え方を頭から否定はしないが、決して「同意する」わけでもない。あくまで否定的ニュアンスによる不快感を避けようとするアプローチだ。そういう意味では結局否定していることに変わりはない。
上手な反論方法は、いったんは完全に相手に「同意」するやり方だ。いや、「共感」と言った方がいい。そして「否定」ではなく「変化」を示す。
私も自分のサービスを営業する際は、懐疑的な質問を浴びせられることが多い。ITベンダーに対して、これまでのセミナー手法を根底から変えようと提案するのだからもっともな反応と言える。
「ワークショップでみんな本音を話すの?」
「議論ばかりしていて営業につながるの?」
そんなとき私は、「なるほど。おっしゃることは分かります。しかし・・・」という言い方はしない。
「まさに私もそう考えていたんです」と「かつて自分自身があなたと同じ考え方でした」というふうに大いに共感を示す。そして、それが「このような理由で、このように考え方が変わってきたのです」と自分の考え方が変わってきた歴史を語るのだ。
疑似体験により共感させる
「百聞は一見にしかず」という。人間は一度何かに疑問を持つと、そう簡単に疑問は払拭されない。いくら第三者から説得力ある理由を告げられても、自分の目で確かめてみないと納得しないものだ。
だから、「私自身がかつてあなたと同じ考え方でした」と、いったん相手と同じ立場に立ち、自分の経験を語ることで、考え方の転換を疑似体験させるのだ。つまり、自分が考え方を変えるための“受け入れやすいシナリオ”を提供してあげるのだ。
人は説得ではなかなか動かないが、共感によっては動かされる。反論とは相手の論理を否定することが目的ではなく、こちらの考えに同意させることが目的だ。そのためには反論トークではなく、共感トークの整備に力を注ぐことが重要だ。
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