「データベース(DB)システムを裏側で稼動させている企業サイトが急増しています」――これだけ書くと数年前に語りつくされたニュースです。確かに大企業は,自社のWebシステムに何億円という規模の投資をしてデータベースの活用を推進してきました。

 では中小企業ではどうでしょうか。

 私は現職のWebプログラマです。多くの開発案件にタッチしてきましたが,大多数の中小企業にはそんな予算はありません。自社サイトはレンタルサーバーだったり,ドメインを契約プロバイダ上で構築しているという規模(年間維持費20万~100万円)がほとんどです。WebやDBについて深い知識のある担当者もいません。

 しかし,ここ3年ほど,こうした小さな規模の企業サイトから,続々とデータベースを組み込んだWebシステムの開発依頼が舞い込んでくるようになりました。もはや,Web+DBシステムは,Webサイトの規模に関係なく常識となりつつあるようです。

 そこでこの連載では,プログラマやSEといったソフトウエア・エンジニアではなく,デザイナーやWebサイト・マネージャなど「Web+DBって何?」という方を対象に,Web+DBサイトの“今”を語ってみたいと思います。

 データベースって何? システムはどう企画されたの? システム構築時に相談のポイントは? 納期は? 経費はいくらかかるの?――。

 こういった素朴な疑問に答えていきましょう。もちろん守秘契約があり,すべてを詳細に語ることはできませんが,話しうる範囲の中で,できるだけわかりやすく解説していきたいと思います。よろしくお願いいたします。

今回のポイント
・Web+DBとは何か
・Web+DB化が進む社会と業界の背景

 連載1回目として,最初に「Web+DB」という言葉の定義をしておきましょう。

 Webというのは固定化されたコンテンツであり,もっと狭義にはHTMLドキュメントのことを指します。DBはデータベースの略です。そこで,既存のHTMLドキュメント群にデータベース機能を追加することを「Web+DB」と呼ぶことにします。

広報から支店になりつつある企業サイト

 一般に小規模な企業サイトでは,Webサイトの役割は会社概要とニュース・リリースが中心です。極端な話,自社ドメインがあって,メールアドレスさえ使えればいいやという運用が中心になっています。初期の段階ではWebデザイナーにデザインをしてもらうこともなく,素人が社内でホームページ作成ツールを使った程度の,内製サイトであることも少なくありません。

 ここで,会社概要とニュース・リリースという点に着目してください。これはWebサイトが,「広報部」の役割を持っていることを表しています。取引先(あるいは競合企業)に対しての情報提供としての価値はあっても,多くの場合,一般消費者が頻繁に訪れるようには作られていません。

 一方,先端的な企業サイトでは,メールマガジンなどの会員制度の導入,商品の検索から直販といった顧客/金銭/商品の管理に進んでいます。「人」「物」「金」の管理は企業の基本要素ですね。扱う内容は広報部のレベルではなく,小さな「支店」レベルとなっているのです。

 しかもこれらのWebサイトは,社内の誰かが24時間,監視しているわけではないので,もはや「無人支店」の様相を呈しています。業態によっては,この無人支店がそこそこの売り上げを稼ぎ出しているのも事実です。

 このように,企業サイトが広報から支店へと格上げになると,それまで以上に情報の管理が必要となってきます。ほぼ無人で運用される以上,サイトが取り扱う情報を帳票に記入していくという作業はできなくなります。では「何を使って」情報を記録し,管理していくのか。その問題の答えがデータベースなのです。そして近年,中小規模の企業でもWebサイトの支店化が着実に進みつつあるわけです。

ECサイトに見るデータベースの役目

 話を進める前に,一度データベースを使ったサイトのイメージを作っていただくことにします。実際にWebシステムに対してデータベースがどのように働いているかを見てみましょう。あるECサイトを例に考えてみます。このサイトは決済まで行えるものと想定します。

 ユーザーは自分のニーズに合わせて商品を検索,選択して購入します。購入時に送付先や支払い方法を指定します。ごくごく一般的なECサイトです。

図1 ユーザー側の行動とデータ記録の概要

 運営側(企業側)は商品の新規登録/編集/削除と売り上げの確認,購入者の管理,注文された商品の手配を行います。通常のECサイトでは一般のユーザーが見ることのできない「管理画面」を使用します。

図2 運営側の行動とデータ記録の概要

 データベースの役割はデータの貯蔵庫です。この場合,「商品」「売上記録」「顧客」という三つの器があり,そこにサイト運用に必要な情報が蓄積されます。

 「うちは物販会社じゃないぞ」という企業の方は,商品の部分を自社取り扱い品目に置き換えて考えてください。物販を行っておらず,情報だけを提供している場合も変わりません。例えば株価や為替相場の情報サイトであれば,ユーザーは商品の代わりに見たい企業を検索して情報を表示します。求人サイトであれば時給や地域で検索して仕事情報を見ることになります。何かシステムを考える場合に,一般例を自社の業態にあてはめて想像するということはとても大切です。

小規模な企業サイトでデータベース導入が進む理由

 ここ数年,中小規模企業サイトのWeb+DB化が加速しているには,主に三つの理由があります。

・レンタルサーバーでもデータベースの使用ができるようになった
・データベース・システムの構築事例が増え,開発者のスキルが上がった
・結果的に構築費用が低価格化した

図3 Web+DB構築費用は低価格化が進んでいる

 現在,ほとんどのレンタルサーバーではデータベースが使用できるようになっています。データベースを使用するにあたっての追加料金は,月額ベースで無料~数千円程度。ランニング・コストが下がったことで,サイト構築業者も提案しやすくなっているのです。

 また,データベースが使いやすい環境が整うと,開発者は開発経験を積むことができます。開発者にとって,実際に商用システムとして組み上げた経験があるかないかは大きな問題で,一度でも組み上げた経験があれば,以降の案件の開発は爆発的に効率が上がります。

 開発効率の上昇は工期の短縮につながり,開発費用を圧縮します。結果的に低価格で顧客に提案が可能になります。

 低価格でのWeb+DB事例が増えると,データベースに対するニーズが高まり,レンタルサーバー業界で顧客維持,新規顧客獲得のためにデータベース導入率が上昇,あるいはデータベース使用オプションの無償化,低価格化が進みます。するとまたデータベース連携サイトの構築が増え――とつながるわけです。サイトとデータベースを結びつける「輪」は,現在,極めて好循環になっているのです。

 「では,もっと待てばもっと安くなるのか?」――開発者の個人的な見解としてですが――たぶん2006~2007年内で価格としてはボトムラインに到達すると思います。すでに十分な開発事例が蓄えられ,工期はある程度限界に近づいています。今後さらに価格を下げていく要素はないように見えます。

 今回は,まずWeb+DBシステムの概要をざっと説明してみました。次回からは,サイト構築業者との折衝前に知っておきたいことについて順番に説明していきます。