日経コンピュータは,IT投資の管理やIT部門の体制が他社と比べてどの程度のレベルにあるのかを比較する「IT力」調査を実施した。大手企業178社から得た回答を基に「IT力」を算出する過程で,企業のITガバナンスについて,興味深い結果が浮かび上がった。5回にわたり,その実態を紹介する。

 1回目は,システム化案件の発注先を選定する方法,優先順位の決定方法などに関する回答結果をまとめた。まず,製品やサービスを発注するITベンダーの選定基準があるかどうかを聞いたところ,「基準がある」と回答した企業は,178社のうち27.0%だけ(図1)。「一部のシステム(製品)にはある」とした企業を合計しても55.7%にとどまった。

図1●ベンダーの選定基準があるか(%)
図1●ベンダーの選定基準があるか(%)

 ベンダーの技術力をどのように評価しているかについては,「情報システム部門が評価している」のが82.6%で,「外部の専門家に委託している」のが3.4%。一方で,「特には評価していない」企業が15.7%あった。ITベンダーの選定方法について,少なからず課題を抱えた企業があることがわかった。

 IT投資については,複数のシステム化案件のうち,どの案件から投資をするかといった優先順位の判断基準を文書などで明文化している企業は14.6%にとどまった(図2)。また,全社の投資予算のなかにIT投資の予算枠をあらかじめ用意しているかという質問に,「いいえ」と答えた企業は36.0%に上った。

図2●IT投資予算の優先順位を決める基準を明文化しているか(%)
図2●IT投資予算の優先順位を決める基準を明文化しているか(%)

 IT投資の効果を評価しているか尋ねたところ,28.1%と4分の1強の企業が「特に評価していない」と回答。システムの「作り放し」を許しているユーザー企業が未だに少なくないという実情が改めてわかった。

 IT投資効果を評価している企業に,どのような手法を使っているか聞くと,「ユーザー満足度」(複数回答,以下同)が最も多く66社あった(図3)。次が「Payback法」で54社。以下,KPI(重要業績評価指数),ROI(投下資本利益率)と続いた。

図3●IT投資の評価に使っている手法は(複数回答、社数)
図3●IT投資の評価に使っている手法は(複数回答、社数)

 日経コンピュータでは,企業の「IT力」を,「IT投資の管理」,「ユーザー・サポート」,「IT部門の組織づくり」,「システムの全体最適化」,「品質・プロジェクト管理」,「システム企画」,「運用・保守」の7分野に基づき分析。大手企業の「IT力」を数値として算出した。詳しいランキングは,こちらのページで紹介している。

 「企業のIT力調査」は日経リサーチの協力で実施。上場企業・非上場有力企業2223社に調査票を送付し,今年5月から8月にかけて178社から有効回答を得た。調査票のうち,意見を聞くものや全体の傾向の分析だけに使うものを除いた63の設問(副設問含む)について編集部が配点。さらに,日経コンピュータが主催する「システム部長会」の会員45人から寄せられた,質問項目の重要さに関する意見を配点に反映して出したスコアを算出,偏差値化してランキングを作成した。調査票の詳細および178社の回答企業一覧も,上記で紹介したページに記載している。