前回,どのような場合に偽装請負に該当するのかを説明をしました。今回は,偽装請負を無くすために,どのような対応をすれば良いのか具体的に検討します。

 偽装請負を無くすためには,2つの方向性が考えられます。1つは,前回説明した厚生労働省の「労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準」に従い,実質的に請負であることを徹底することです。

 このような観点から,同一構内の作業を行う場合には,請負企業のSE(システムエンジニア)と派遣先であるユーザー企業の業務スペース,及び社内ネットワークを分離するといった対応を採った企業もあります。

 もう1つは,実態に合わせて請負契約を止め,派遣契約に切り替えるというものです。

 実は,ベンダーが雇用している従業員を派遣することはそれほど難しいことではありません。ベンダーが厚生労働大臣に届け出を行い受理されれば,派遣が可能になります(特定労働者派遣の場合。登録型の派遣事業を行う場合には厚生労働大臣の許可が必要です)。

 ただ,派遣に切り替えた場合には請負と異なり,派遣先企業には派遣先責任者の選任,派遣先管理台帳の整備といった義務が発生します。派遣先企業は,一定の場合に使用者としての責任を負うことになりますので,注意が必要です。

 このような違いの中で一番影響の大きいものは,安全管理責任の問題です。適法な請負の場合は,職場における安全管理体制を構築する責任は,請負事業者にあります。しかし派遣の場合には,派遣先企業が安全管理体制の構築責任を負うことになります(注1)

 なお,一般の派遣の場合には,派遣受入期間に制限があります(一般的な派遣業務の場合最長3年)。ただし,SEなどの専門26業務については,派遣受入期間の制限はありません(注2)。その点では,派遣の形を採ることによる制約は少ないと言えるでしょう。

派遣の“孫請け”は認められない

 このように派遣に切り替えることにより,問題を解決できる場合もあるのですが,それだけでは単純には解決できない問題が1つあります。いわゆる二重派遣の問題です。

 前回の説明でも,基本的にはユーザー企業と請負企業の2者間の関係を中心に請負と派遣を説明してきました。しかし,実際には元請けと複数の下請けが連鎖する場合が少なくありません(図1)。

図1●請負契約の元請けと複数の下請けが連鎖した関係
図1●請負契約の元請けと複数の下請けが連鎖した関係

 派遣先のユーザー企業と元請けA社との関係(1)が適正な請負であった場合,元請けA社に対して,下請けB社が技術者を派遣することは,派遣契約が元請けA社と下請けB社間の1つだけなので問題がありません(ただし,下請けB社から派遣された技術者は,元請けA社が指揮命令することが前提です)。

 しかし,下請けB社の技術者だけでは足りず,下請けC社からB社に派遣された技術者を,B社が元請けA社に派遣したとします。この場合,下請C社の社員が下請けB社を通じて派遣されていることから,二重派遣(図1の(2)と(3)の2つの派遣契約が存在)に該当することになります。

 この場合,二重派遣を解消するには,元請けA社に対して下請けC社から技術者を直接派遣する必要が出てきます。派遣の形態では,孫請けのような形は認められず,フラットな形で契約する必要があるからです(注3)

 なお,図1では,ユーザー企業と元請けA社の関係を請負契約としました。ユーザー企業へ元請けA社から技術者を派遣する場合は,ユーザー企業とA社,B社,C社の関係は,上記の元請A社と下請けB社,C社の関係と同じになります。従って,各下請からユーザー企業へ技術者を直接派遣しないと,二重派遣が問題となります。

JVも偽装請負の回避に利用できる

 このほか,ジョイントベンチャー(JV)を介在させることも,偽装請負を回避する方法の1つです。

 JVは,建設業などでよく見られる形態です。複数の会社が共同事業を営む場合,これまで法的には民法上の組合として構成されてきましたが,今後は「有限責任事業組合(いわゆる日本版LLP)」として構成することも可能でしょう(注4)。下請けの連鎖が生じる理由の1つとしては,ユーザー企業側が,下請企業の信用力に不安があったり,受注要件を満たさない場合に大手の元請事業を介在させているという事情があると思われます。このような場合に,JVとして信用力等を補完させるわけです。

 もちろん,JVとして請負契約を結ぶことも可能です(契約はユーザー企業とJVの間で締結)。この場合も厚生労働省の「労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準」に従い,実質的に請負であることが必要であり,ユーザー企業からJVを構成する各社の技術者に対して直接指揮命令することはできません。

 JVを介してユーザー企業へ技術者を派遣することも可能です。図2のような場合,形式的には二重派遣であるように見えますが,JVには法人格がありませんので 二重派遣には該当しないと考えられています(注5)

図2●JV経由の派遣は二重派遣に該当しないと考えられる
図2●JV経由の派遣は二重派遣に該当しないと考えられる

 以上のように,偽装請負にあたらない方法をいくつか見てきました。法的にはいろいろなやり方はあるのですが,実際にはこれまでの慣行といったものや,偽装請負をやめることで業務の効率性が落ちるといった壁があるでしょう。しかし,これまでの「慣行」であるから適法であるということにはなりません。

 ユーザー企業,元請企業も含めて,意識を変えていく必要があると思われます。

(注1)安全管理責任を回避するために,派遣ではなく請負の形式をとる企業もあるようです
(注2)同じく偽装請負が問題となっている製造業では,製造業務について派遣期間が1年に制限されています。それと比較するとSEの派遣は要件が緩和されています
(注3)もう1つの方法としては,下請C社の派遣登録者を本人の同意を得て下請B社へ登録変更する方法があります。ただ,この場合C社が有料職業紹介の許可を得ないで紹介料などを受け取ると問題となります
(注4)日本版LLPについては,本連載の第1回「有限責任事業組合(日本版LLP)(1)中堅中小企業にも利用価値のある制度」を参照してください
(注5)JVの取り扱いについては,「労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準」で解説されています。法人格がないことを二重派遣ではないことの根拠にしていることから,法人格を有する合同会社(日本版LLC)の場合には,二重派遣に該当することになりそうです


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■北岡 弘章 (きたおか ひろあき)

【略歴】
 弁護士・弁理士。同志社大学法学部卒業,1997年弁護士登録,2004年弁理士登録。大阪弁護士会所属。企業法務,特にIT・知的財産権といった情報法に関連する業務を行う。最近では個人情報保護,プライバシーマーク取得のためのコンサルティング,営業秘密管理に関連する相談業務や,産学連携,技術系ベンチャーの支援も行っている。
 2001~2002年,堺市情報システムセキュリティ懇話会委員,2006年より大阪デジタルコンテンツビジネス創出協議会アドバイザー,情報ネットワーク法学会情報法研究部会「個人情報保護法研究会」所属。

【著書】
 「漏洩事件Q&Aに学ぶ 個人情報保護と対策 改訂版」(日経BP社),「人事部のための個人情報保護法」共著(労務行政研究所),「SEのための法律入門」(日経BP社)など。

【ホームページ】
 事務所のホームページ(http://www.i-law.jp/)の他に,ブログの「情報法考現学」(http://blog.i-law.jp/)も執筆中。