「タカダ先生,前回に登場した変動損益計算書とCVP図表の関係について,質問したいのですが」
顧問先企業の小会議室で豆大福の大食い競争をしながら,筆者の右手に座っているS係長が発言を求めてきました。

「次の2つの図表のことですね?」

図1●京セラの変動損益計算書
図1●京セラの変動損益計算書

図2●京セラの2006年3月期のCVP図表その1
図2●京セラの2006年3月期のCVP図表その1

「2006年3月期の変動損益計算書に基づいて描いた図2では,実際売上高,変動費,固定費,営業利益といった科目が書き込まれていますが,唯一,『変動利益』が見当たりません。これは,CVP図表のどこにあるのですか?」
いい質問ですね。

 図2は,CVP図表としてはポピュラーなものなのですが,この図からは変動利益を示すことができません。次の図3に描き改める必要があります。

図3●京セラの2006年3月期のCVP図表その2
図3●京セラの2006年3月期のCVP図表その2

 図2は,固定費の上に変動費を乗せたものです。これに対し,図3は固定費と変動費の上下関係を逆転させ,変動費の上に固定費を乗せて描き直したものです。図3においても,売上高線と総コスト線の描きかたは不変です。固定費はOB=GP=CDであり,変動費はACの高さで表されます。そして,2006年3月期の変動利益4273億円は,CEの高さで表されます。

 変動利益は変動損益計算書の構造から「売上高から変動費を控除したもの」と表現できます。その一方で,図3を見れば明らかなように,変動利益は「営業利益1032億円に,固定費3241億円を加えたもの」と表現することもできます。特に後半の定義(営業利益に固定費を加えたもの)は,変動利益の性格を表わすものとして,しばしば語られるところです。
 それから,変動利益は「固定費を回収し,営業利益の発生に貢献する利益だ」といわれることがあります。図3の損益分岐点Pのところでは変動利益=固定費が成り立っていますが,売上高がP点から少しでも右へずれれば営業利益の発生に貢献することになります。

「ああ,それで変動利益を貢献利益と呼ぶケースもあるわけですね」
そうです。貢献利益という呼称は,営業利益の発生を積極的に捉えようと意図するものです。ただし,このコラムでは,売上高に比例する利益という性質を重視し,変動利益の名称で統一することにします。

 さて,図3において,∠COAは変動費率を表わし,京セラの場合は0.638になります。これは第13回のコラムで登場した図4の右上がり直線ABの傾きのことです。
 横軸に売上高を設定した場合,図3の∠EOAは常にθ=45゜であり,tanθ=1.0の値をとります。このとき∠EOCは変動利益率となり,その値はtanθから変動費率を差し引いた値,すなわち1-0.638=0.362になります。

「図3の∠EOCが変動利益率なら,∠EPDも変動利益率になりますね」
「それをいうなら,図2で損益分岐点(BEP)を挟んだ,青い三角形と赤い三角形それぞれの鋭角も変動利益率だよ」
そうそう,もっと議論を重ねてください。

 みんなが議論に熱中している間に,最後の豆大福をそっといただくことにしました。これに昆布茶があれば,いうことなし。


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■高田 直芳 (たかだ なおよし)

【略歴】
 公認会計士。某都市銀行から某監査法人を経て,現在,栃木県小山市で高田公認会計士税理士事務所と,CPA Factory Co.,Ltd.を経営。

【著書】
 「明快!経営分析バイブル」(講談社),「連結キャッシュフロー会計・最短マスターマニュアル」「株式公開・最短実現マニュアル」(共に明日香出版社),「[決定版]ほんとうにわかる経営分析」「[決定版]ほんとうにわかる管理会計&戦略会計」(共にPHP研究所)など。

【ホームページ】
事務所のホームページ「麦わら坊の会計雑学講座」
http://www2s.biglobe.ne.jp/~njtakada/