筆者は2006年1月に初めてWindows Vistaの評価版を試した際に,うかつにも「煩わしい新機能である『UAC(ユーザー・アカウント制御,User Account Control)』は取り除かねばならない」と主張してしまった。筆者はこの発言を愚かだったと反省している。なぜなら,筆者は今ではUACのことを便利なツールとみなしているからである。なぜWindows VistaにとってUACが必要なのか解説しよう。

 Microsoftはかつて,UACのことを「Limited User Access」と呼んでおり,その後「User Accout Protection」と変更した上で,再度UACに変更している。その間,Microsoft社員以外の大勢の人々が,UACのことをとても活字にはできない様々な名称で呼んでいた。彼らにとってUACが,あまりにも煩わしい存在だったからだ。

 UACは,ユーザーがマルウエア(悪意のあるソフトウエア)をうっかりシステムにインストールしてしまうのを防ぐために搭載されたWindows Vistaの基本機能である。UACはマルウエアの最も一般的なインストール手段を妨害することで,ユーザーをマルウエアから防御するのだ。そのインストール手段とは,ユーザーを騙してインストールを許可させることである。スパイウエアの多くは,一見無害なプログラムを装っている。多くの人々は楽しいゲームで遊んだり,ヌード写真を見たりすることを期待して,プログラムをインストールしたり,Webサイトのハイパーリンクをクリックしたりする。しかしそういったプログラムやハイパーリンクは,ユーザーを騙して彼らの管理者権限を借用し,マルウエアをインストールしているのだ。

UACがマルウエアのインストールを妨げる仕組み

 それでは,UACはどのようにしてマルウエアのインストールを妨げるのだろうか。基本的にUACは,ユーザーがソフトウエアのインストールといった管理者権限が要求される作業をしようとする度に,「あなたは管理者権限が必要なことをしようとしています。それを理解していますか?」という趣旨のダイアログを表示する。多くのベータ・テスターがUACを嫌っているのはこのためである。確かに,イライラさせられる。筆者がUACの画面を初めて見たときには,こう思ったものである。「私は自分のコンピュータの前に座って,自分がやりたいことをやっているだけだ。それなのにこの忌々しいUACは,私の知性に疑問を呈して侮辱する。これでは血圧が上がってしまう。こんなものくたばってしまえ」と。そして筆者はこの機能を無効にし,筆者の意見に耳を傾けている人に同じことをするように勧めた。

マルウエアがまん延する現状に考えを改める

 しかし2006年6月上旬,知人から「10種類のスパイウエアをパソコンから取り除いてほしい」という,これまで100万回はあったかという依頼を受けたときに,筆者の考えは突然変わった。知人はコンピュータ以外の技術分野で働く知的な人であったが,パンドラの箱を開いてしまっただけでなく,自分の家にパンドラの箱の住人(マルウエア)を多数招き入れていたのだ。

 つまり,こういう状況だからWindows VistaにはUACが必要なのだ。多くのコンピュータ・ユーザーは,どのような行為が自分のプライバシーや財産を危険に陥れるのか理解していない。同様に,どのような行為が自分のシステムをワームの温床にして,インターネットのスピードを著しく低下させるのかも,理解していない。無知というのは深刻な問題であり,抜本的な解決策を必要としている。本誌の読者であれば,少なくとも1回は,何らかの形でスパイウエアの除去をしたことがあると思う。マルウエアの現状を要約するのは簡単だ。私たちは現在,マルウエアとの戦争状態にあり,形成は私たちに不利である。

 今ではもう,筆者は慣れてしまったが,UACにイライラさせられたのは事実だ。だがそんなことを言い出したら,筆者はシートベルトにもイライラしている。それは恐らく,筆者が幸運にも,シートベルトが必要な状況に一度も陥ったことがないからだろう。しかし,「シートベルトがなかったら死んでいたという事故にあったが,シートベルトのおかげで事故現場から歩いて帰れた」という経験をしたら,筆者の考えも変わると思う。同様に,筆者がだまされてマルウエアをインストールすることは絶対にない,と思っている。しかし,それは事実でないかもしれない。UACが「あなたは危険を招く可能性があることをしていますよ」と,たまに筆者の肩をポンと叩いてくれることが,歓迎すべきことになる日が来るかもしれないのだ。

ベータ・テスターに3つの提案

 UACを嫌っているベータ・テスターにいくつか提案したい。まず第一に,UACを試してみることを強くお勧めする。使っているうちに,不快感は必ず軽減されるはずだ。第二に,ベータ版のテストをすることが,製品版に影響を与えられることを忘れないでほしい。なるべく早くUACを使って仕組みを観察して,見た目やパフォーマンスを向上させる方法をMicrosoftに提案してほしい。筆者は,今年の初めからWindows Vistaをテストしているが,UACの厚かましさが大幅に緩和されたことに気づいた。UACに関してMicrosoftに注文を出すのは今しかない。Windows Vistaが出荷されてしまうと,Windows開発チームのほとんどがWindows Server 2007の開発に移ってしまい,UACに関して人々の不満に耳を貸す人が誰もいなくなってしまうからだ。

 第三に,マルウエアについて知っていることをMicrosoftに伝えて,UACを進化させてほしい。今日のマルウエアは非常に巧妙だ。UACが「一般的なマルウエアのうちの80%にだけ有効」という最悪の事態は避けねばならない。UACの効果が薄いと,ユーザーがイライラするだけで,実際にはユーザーを保護できないものになってしまうからだ。最後になるが,UACがどうしても我慢ならないという人は,いつでもGUIやグループ・ポリシーでUACを無効にできる。ただし,UACがデフォルトで有効になっていることによって,あなたの友人や家族が大きなトラブルから救われる可能性があることだけは,理解してほしい。