「SIPを採用しているが,ほかのベンダーの機器とはつながらない」。SIP(Session Initiation Protocol)というのは,IP電話の呼制御プロトコルのことである。IP電話機などの端末とSIPサーバーの間で使われており,通話相手との間で電話を接続したり切断したりといった役割を果たしている。SIPはIETF(Internet Engineering Task Force)標準であり,それを採用しているIP電話関連機器/ソフトは多い。しかし,異なるベンダーの機器同士は接続できないのが半ば“常識”となっている。

 つながらないSIPになった原因のひとつに,実用上必要になる機能が標準化されていないことがある。PBX(構内交換機)には,保留・転送などをはじめ,細かく分類すれば数百の機能がある。これらの機能を実装しなければ,既存のPBXをIP-PBX(SIPサーバー)に置き換えてくれないユーザー企業は少なくない。そのためIP電話関連機器/ソフトのベンダーは,SIPの標準ではない機能も,“SIPベース”で独自に実装してきた。

 また,従来のPBX文化も原因といえる。従来のデジタルPBXでは,デジタル電話機は同じベンダーの製品しかつながらなかった。このため,IP-PBX(SIPサーバー)につながる端末は同じベンダーの製品だけ,といってもそれほど問題視されていない。その結果,SIPを採用していても,異なるベンダーの機器同士を接続できないという事態を招くことになった。

 プロバイダのIP電話サービスも同様である。企業向けIP電話のサービス・プロバイダが接続機器を推奨している,あるいは接続機器のベンダーが接続できるIP電話サービスを指定したりしている。家庭向けIP電話サービスに至っては,SIP自体をユーザーに見せていない。プロバイダが提供または指定するルーターに,従来のアナログ電話機を接続して使うのが基本である。

標準である意味を重視すべき

 このままでは,SIPが標準である意味がない。そろそろ,SIPが標準であることに立ち返り,プロバイダ/機器ベンダーの双方が相互接続性を真剣に考えてほしい。既存のPBXが備える数百もの機能をSIPに盛り込む必要はない。多くのユーザーが必要とする機能は限られており,その相互接続を実現すれば十分である。

 米国などでは,IP電話機や無線IP電話機が簡単に入手でき,それを利用できる。CounterPathの「X-Lite」のように評価が高いフリーソフトのソフトフォンもある。フリーのSIPサーバー・ソフト「Asterisk」を導入して,端末だけ購入して電話システムを構築するということも可能である。しかし,日本国内では,これらが簡単には利用できない。Asteriskでサーバーを立ち上げたとしても,端末を入手するのは容易ではない。

 もっとも,国内の機器ベンダーやプロバイダが相互接続性の確保に向けて何もしていないというわけではない。総務省やVoIP推進協議会,日本ネットワークインフォメーションセンター(JPNIC)でもそのための活動を進めている。例えば,JPNICのVoIP/SIP相互接続検証タスクフォースでは,SIP Forumが進めるSIPの相互接続検証イベント「SIPit18」を共催した(関連記事)。しかし,実際の製品やサービスは,相互接続性の確保に積極的なようには見えない。

 「SIP準拠=相互接続可能」となれば,電話,コミュニケーションの世界が変わってくる。とくに無線IP電話で“SIP”が使えるようになると,その利便性は大きい。たとえば,NTTドコモの「N900iL」に代表されるデュアル端末を利用し,会社だけでなく家庭でも無線LANを使って電話できるようになる。外出先では,ホットスポット・サービスを使える。端末にPCサイト・ビューアーを搭載してあれば,手軽にWebサイトを見られるようになる。個人的には,Office文書の閲覧機能もあれば,言うことナシである。

 SIPは,IP電話以外にも用途が広がる重要な標準プロトコルである。SIPをベースに,インスタント・メッセージやプレゼンス情報をやりとりするSIMPLE(SIP for Instant Messaging and Presence Leveraging Extensions)が標準化されている。「NGN(Next Generation Network)」でも,SIPが呼制御プロトコルとして利用される。電話でさえつながらないままで,こういった動きにどう対応していけるというのだろうか。