最後のPart4では,まとめとして,広域イーサネットとIP-VPNの両サービスを比較して,それぞれのサービスの特徴を再確認しよう。
構成機器が違えば特徴も変わる
両者のサービスの特徴を知るうえでまず押さえておきたいのは,事業者のネットワークを構成する機器である。広域イーサネットはLANスイッチで,IP-VPNはルーターで構成されている。この大前提が頭に入っていれば,おのずと両サービスの基本的な特徴が見えてくる(図4-1)。
図4-1●広域イーサネットとIP-VPNの特徴 [画像のクリックで拡大表示] |
ユーザーから見ると,広域イーサネットは,LANスイッチが相互に接続した巨大なLANである。その巨大なLANに拠点のLANをつなげば,拠点間でイーサネットによる通信ができる。また,イーサネットで構築したネットワークの上にIPなどのレイヤー3ネットワークを自由に構築できる。
一方のIP-VPNは,ユーザーから見ると,巨大な自営のルーター・ネットである。拠点にルーターを置くと,事業者のルーター・ネットを経由したIPネットワークが作れる。事業者のネットがIPネットワークなので,拠点間のレイヤー3の通信はIPに限られる。
アクセス回線が若干違う
使えるアクセス回線の種類は,基本的には両サービスでほぼ同じである。強いて違いを挙げるならば,IP-VPNでは,加入電話やISDN,PHS端末などの低速回線を用意する事業者が多い。対して広域イーサネットでは,64kビット/秒の低速回線を用意しているところはあまりない。逆に,10Gビット/秒の超高速メニューを用意する事業者が出てきている*1。
アクセス回線の種類と速度で料金が決まるのはどちらのサービスも同じである。これに加えて,広域イーサネットは,拠点間の距離によって料金が違ってくる場合が多い。ただし最近は,広域イーサネットでも拠点間の距離に関係ないメニューを打ち出す事業者も増えている。
広域イーサは自由度が高い
以上の特徴を踏まえて,ユーザーのネットワーク環境によってどちらのサービスが向いているかを考えてみる。判断材料になるポイントは,(1)ネットワーク層で使うプロトコル,(2)WANに使う機器,(3)ネットワークの設計・運用方針,(4)拠点の分布と数――の四つである(図4-2)。
図4-2●どんなケースがどっちのサービスに向いている? ネットワーク層で使うプロトコル,WAN接続に使う機器,ネットワークの設計・運用方法,拠点の分布と数などによって,向いているサービスが違ってくる。 [画像のクリックで拡大表示] |
(1)のネットワーク層のプロトコルは,レイヤー3のプロトコルに何を使うかである。IP-VPNはIPしか使えない。一方の広域イーサネットにはプロトコルの制約はない。レイヤー3のプロトコルにAppleTalkやIPX*2などを使いたい場合は,おのずと広域イーサネットになる。
(2)のWANに使う機器も判断材料になる。広域イーサネットだと,WAN接続にLANスイッチなど比較的安い機器が使える。一方,IP-VPNはアクセス回線に合わせた機器が必要だ。
このことから,機器を購入して新たにネットワークを構築する場合は,広域イーサネットが向いている。逆に,すでに専用線などでIPネットワークを組んでおり,乗り換え時にこれまで使っていたルーターなどをそのまま使いたい場合はIP-VPNが向く。
IPネットの運用を楽するIP-VPN
(3)のネットワークの設計・運用方針もポイントになる。
広域イーサネットの場合は,どの拠点にルーターを置くかや,ルーティングの方法をどうするかといったネットワークの設計・管理は,ユーザー自身が考えて実施する必要がある*3。広域イーサネットは,設計から運用までを自ら行いたいユーザーに向いている。
一方のIP-VPNは,拠点のルーターの設定・管理は簡略化できる*4。そのため,IPネットワークを楽に運用したいユーザーはIP-VPNが適している。
最後が,(4)の拠点の分布と数である。これは,拠点が特定のエリアに集中している場合は,広域イーサネットが向いている。エリア別の料金体系を採用すれば料金が割安になるからだ。ただし,拠点の数が多いとブロードキャスト・フレームによってアクセス回線の帯域が圧迫されてしまう。そのため,多くの拠点を低帯域の回線で結ぶ用途には向かない。一方のIP-VPNなら,こうした心配をせずに済む。
両方を併用するという手段もある。自社のネットワークに上記のポイントを当てはめれば,広域イーサネットとIP-VPNのそれぞれのメリットを生かした社内ネットを構築できるだろう。