企業ネットワークを構築するときに欠かせないのがWAN(ワン)サービスである。WANサービスとは,通信事業者が用意した設備を使って,離れた場所にある拠点間を結ぶ通信サービスのこと。企業の拠点同士をつないだ全社的なネットワークを構築するときに利用するケースが多い。そのWANサービスで人気を集めているのが「広域イーサネット」と「IP-VPN」と呼ばれるサービスだ。

 Part1では,この二つのWANサービスの人気の秘密と利用法から,これらのサービスの本質を解き明かす。

料金は高速ディジタルの半額以下

 まず,二つのサービスの人気の秘密から見ていこう。

 広域イーサネットとIP-VPNという二つのサービスが支持されている最大の理由は,低料金で高速のネットワークが構築できる点にある。これは,従来型のWANサービスである高速ディジタル専用線*1(以下専用線)やフレームリレー*2,ATM専用線*3と比べてみるとわかりやすい(図1-1)。

図1-1●今人気の2大WANサービスの特徴
図1-1●今人気の2大WANサービスの特徴
広域イーサネットとIP-VPNは,低料金で高速,構築が簡単,つないだ全拠点で通信できる――というメリットがある。月額料金は,東京と大阪の2拠点をつないだときの料金。拠点間の距離は420kmとした。
[画像のクリックで拡大表示]

 例えば,東京と大阪の2拠点間をつないだときの月額料金を比較してみる*4。6Mビット/秒の専用線でつなぐと月額料金は394万3000円で,10Mビット/秒のATM専用線では月額203万2000円になる。

 これに対して,広域イーサネットやIP-VPNを使うと,月額料金はこれらの半額以下で済む。例えば,日本テレコムが提供するIP-VPNサービスを使って東京と大阪の拠点を10Mビット/秒で接続すると月額料金は72万円。さらに,パワードコムが提供する広域イーサネット・サービスを使うと66万8000円である。

 広域イーサネットとIP-VPNの両サービスがこのような低料金でサービスを提供できるのは,事業者でしか使わない高価な装置ではなく,LANスイッチやルーターといった,企業でも使われている機器の上位製品を使っているから。こうしたネット機器は,事業者向けの多重装置やフレームリレー交換機などに比べて安価で,設定や運用も手軽である。

ネットにつながる全拠点と通信

 次に,両サービスを使ってWANを構築したときの機能面から人気の秘密を見てみよう。

 従来の専用線やフレームリレーは,契約した拠点同士だけが通信できる「線」の接続だった*5。それに対して広域イーサネットとIP-VPNは,拠点を事業者のアクセス・ポイントにつなぐと,つないだほかの拠点すべてと通信できる。つまり,両者とも事業者のネットワークを「線」ではなく「面」として活用できるのである。

 また,WANを構築・運用するときの手軽さにもメリットがある。

 広域イーサネットとIP-VPNを利用する際には,企業で一般的に使われているLANスイッチやルーターがそのまま使える。ユーザー側に高価で扱いにくいWAN用機器*6を必要としないので,簡単にWANを構築できるわけだ。

 このように,広域イーサネットとIP-VPNは,コスト面,機能面,運用面のどれをとっても,これまでのWANサービスと比べて有利というわけだ。

広域イーサネットはLANの延長

 次に,二つのサービスをもう少し具体的に見ていく。実際にユーザーが利用するには何をすればいいのか,という点から探っていこう。

 まずは広域イーサネットから。広域イーサネット・サービスは,その名が示すように,離れた拠点間をイーサネットで結ぶサービスである(図1-2)。

図1-2●広域イーサネットを使うとどうなる?
図1-2●広域イーサネットを使うとどうなる?
企業の拠点にLANスイッチを置いて接続すれば,離れた拠点をイーサネットでつないで通信できるようになる。
[画像のクリックで拡大表示]

事業者のネットワークは,LANスイッチで構成されている。そのため,拠点にあるLANスイッチを事業者のネットワークにつなげば,何もしなくても離れた拠点を結ぶ“巨大なLAN”として使えるようになる。拠点のパソコンが出したMACフレームが,そのままの形でほかの拠点まで届くのである。

 とはいえ,各事業者によると「実際はこのような巨大なLANを構築するユーザーは少ない」という。すでにルーターを使ったIPネットワークを構築している企業が多いため,広域イーサネットに乗り換えた後も,拠点単位でサブネット*7を作ってIPネットワークを構成することが多いからだ*8。こうした場合,IPネットワークの構築・運用は,ユーザー自身が行う。