番号ポータビリティの利用時は注意点がある。具体的には,(1)移行先事業者の端末が必要,(2)メール・アドレスの引き継ぎは不可,(3)購入済みコンテンツや独自のサービスは継続して利用できない可能性がある,(4)割引サービスは適用外になる可能性がある──などだ(図4)。

図4●番号ポータビリティを利用する際の主な注意点
図4●番号ポータビリティを利用する際の主な注意点
メール・アドレスやコンテンツのポータビリティの問題に関しては,法人ユーザーでは障壁にならない可能性が高い。

 ただし,いずれも大きな障壁にはなりそうもない。(1)の端末は,必ず新規に購入する必要があるが,同じメーカーの製品を利用すればユーザー・インタフェースの違いに大きくとまどうことはない。また将来は,欧州のようにSIMカード*3の入れ替えによる端末のポータビリティが実現する可能性もある*4

 (2)のメール・アドレスは,現状でも迷惑メール対策として頻繁にアドレスを変更しているユーザーが多い。多数の相手とメールをやり取りしているユーザーの場合はアドレスの変更を周知するのに手間がかかるが,最近は携帯電話事業者に関係なく利用できるメール・サービスがサードパーティから提供されている。これらのサービスを利用すれば,移行の手間を軽減できる。携帯電話事業者からは,新しいメール・アドレスを複数の相手に一斉通知できるサービスが提供されている。

 (3)のコンテンツのポータビリティは,同一事業者内の機種変更でも起こる。コンテンツをサーバーに一時的に退避することで,事業者間で共用できる場合もある。

 (4)の割引サービスは,移行先事業者の戦略次第。例えば年間契約の割引サービスは,契約期間を満了する前に解約すると別途料金を徴収されることが多い。しかし,移行先事業者がその費用を負担するキャンペーンを実施することも十分考えられる。

法人ユーザーはモバセン利用時に注意

 これらの注意点は,主に個人ユーザーを対象としたもの。法人ユーザーの場合は,事業者を移行してもほとんど影響を受けない可能性が高い。携帯電話のメール・アドレスを名刺に記載することは少ないし,コンテンツを購入するケースもまれだろう。法人ユーザーの方が事業者を変更する上での障壁は少ないと言える。

 とはいえ,例外もある。NTTドコモやKDDIが企業向けに提供している「モバイル・セントレックス*5」だ。NTTドコモの「N900iL」やKDDIの「E02SA」は社内の内線電話としても利用するため,事業者を変更して端末を変えると,同時に内線電話システムも見直さなければならない。このほか,NTTドコモの「iモード」や「iアプリ」を使って業務システムを構築している場合も同様。他の事業者に移行する場合は代替手段を用意する必要がある。

吉田 宏平(よしだ・こうへい) 総務省 前・番号企画室課長補佐

1994年に郵政省入省。電子署名法,電波開放戦略,携帯電話の新規参入などに従事。2006年7月31日まで総務省総合通信基盤局電気通信技術システム課番号企画室の課長補佐。現在は行政管理局で国の組織・定員などの査定を担当する。