富田克一・執行役副社長(取締役,営業・マーケティング統括営業担当)

 元NEC取締役の富田克一副社長は,長年NECのパソコン事業を率いたパソコン販売のスペシャリスト。7月に旧ボーダフォンに加わった。技術者出身の富田氏がパソコン事業で築いた人脈は,携帯電話事業でも大きく生きるという。パナソニックモバイルコミュニケーションズの櫛木好明・取締役社長や,東芝の西田厚聰・取締役代表執行役社長はパソコン事業で切磋琢磨した盟友。そんな富田氏に営業戦略を聞いた。

パソコン業界から携帯電話業界へ転進した。違いをどう意識しているか。

 今起こっているのは孫社長(編集部注:孫正義・代表執行役社長)の言葉でいえばデジタル情報革命。それを先導したのはパソコンだ。そしてインターネットが出てきた。今は携帯電話がその革命を引っ張っている。

 この情報革命初期にパソコンに携わっていた技術者は今,携帯電話業界にシフトしている。売る立場から見てもパソコンから携帯電話に軸足が移っている。例えば量販店。私がパソコン事業にかかわり始めたころ,量販店の店頭は洗濯機やエアコンが主流だった。だがその位置をパソコンが占めるようになった。今は売り場に携帯電話が進出している。

 この情報革命がもたらしたのは,モノの価値よりサービスの価値が大きくなったことだ。そして大衆ではなくパーソナルの時代になった。パソコンは物の価値観で売れていた。物を使ってサービスを展開する携帯電話事業は,パソコンとはビジネスモデルが違う。

 携帯電話はワンセグ(地上デジタル放送の携帯機器向け放送サービス)を受信できるようにしたい,など要求するサービスによって多様な端末が存在する。ビジネスで持つ,遊ぶとき持つ,といったようなシーンに携帯電話をフィットしていくことが重要になる。

今の携帯電話市場をどう見ているのか。

 現在の9300万超という携帯電話の加入者数は非常に大きい数字。“音声やり取り機”としては成熟しきっている。今は携帯電話でテレビが見られて,財布にもなる。もはや携帯電話ではなくカタカナ書きの“ケータイ”として進化している。

 売り文句の点では携帯電話もパソコンの最初のころとちょっと似ている。だが,パソコンは効率化の道具ではなく,仕事のやり方や個人のライフスタイルそのものを根底から変えるものだった。携帯電話も効率化の道具ではなく,“音声やり取り機”を超えて進化し,人間の生活そのものを変えてしまった。

 携帯電話は需要が停滞して市場が飽和し,これから小さい市場を取り合うと言われる。私は全くそうは思わない。テレビはとっくに成熟しているのに薄型などまだまだ新しい需要を掘り起こしている。テレビや白物家電に比べれば携帯電話はこれから。携帯電話の技術は進化している最中だ。それに伴って携帯電話向けのコンテンツやその利用環境は爆発的に広がっている。こういうことが継続している限り,市場が急に縮むことはありえない。

業界3位からの巻き返し策は。

 秘策はあってもここで明らかにはできない。ドコモ,KDDIに塩を送るようなものだ。

 NECがパソコンでトップシェアだったときは全方位で品ぞろえをしていた。2位以下のメーカーはすき間をついてNECがラインアップしていないパソコンを生んでいく。そのときNECは,即座に同じ製品を出して追いかけた。現在携帯電話で3位のソフトバンクモバイルは,トップと同じ思想で同じことを追いかけてはいけない。ターゲットの絞り方や重点化事項,機種それぞれの特徴などをはっきりさせて,市場のニーズに応えた重点投資をしていく。

 重点化事項の一つがヤフーとの関係強化だ。ソフトバンク傘下にヤフーを持っていることは,ドコモ,KDDIと差別化できる点。このタイミングでヤフーとのシナジーを出していくことが,ソフトバンクモバイル躍進の鍵だ。(インタビューは8月23日)