Part3では,次々と登場している新サービスの中で,すでに私たちが実際に利用できるものを取り上げる。DNSというと企業の管理者が扱う難しい技術というイメージがあるかもしれない。しかし,実際は私たちも手軽に利用できる新サービスがいくつも登場して,インターネットを便利にしてくれている。そんな新サービスのしくみを見てみよう。
日本語ドメイン名
アプリが通信内容を従来通りに変換
最初に取り上げる新サービスは,日本語ドメイン名だ。日本語ドメイン名は,「日経BP.jp」などのように,名前にひらがなやカタカナ,漢字が使えるドメイン名のことである。ドメイン名に英数字以外の文字を使えるようにした国際化ドメイン名*1の枠組みの中で,日本語の文字を扱うものである。
軌道に乗ってきた日本語ドメイン
日本語ドメイン名は,標準仕様が決まる前からユーザーやドメイン名登録事業者(レジストリ)の期待が大きく,標準化に先立って日本語ドメイン名の受付がスタートした。2000年秋にcom,net,orgドメインなどで日本語ドメイン名の登録が始まり,2001年2月には日本レジストリサービス(JPRS)も汎用型jpドメイン名*2で日本語ドメインの登録受付を開始した。そして2003年3月に,国際化ドメイン名の技術仕様がRFC*3として固まった。
日本語ドメインに対応するアプリケーションも増えてきた。WebブラウザであるNetscape(ネットスケープ) 7.1,Mozilla(モジラ) 1.4,Opera(オペラ) 7.2などは,すでに日本語ドメイン名に対応済み。唯一残されたInternet Explorer(インターネット エクスプローラ)(IE)も,JPRSが無料で提供中のプラグイン・ソフトi-NAV(アイナブ)*4をインストールすれば扱える。日本語ドメイン名を使ったWebサイトも立ち上がり始めている(図3-1)。
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図3-1●日本語ドメイン名を使ったWebサイト ドメイン名に漢字やひらがなといった全角文字を使ってWebアクセスできる。 |
表示は日本語,通信は英数字
国際化ドメイン名の利用を実現するにあたって第一に考えられたのが,既存のDNSのしくみになるべく影響を与えないようにすることだった。しくみ自体に変更が及ぶと,インターネット全体が混乱する危険性があったからだ。
そもそもDNSがドメイン名として扱える文字は,半角英数字と「-」(ハイフン)の63文字と決まっていた*5。そこで,日本語ドメイン名では,漢字やひらがなのドメイン名を本来利用できる63個の英数字にパソコン側で変換することにした。インターネットに流す前に日本語文字を変換してしまうので,実際の通信でやりとりされるのは半角英数字だけになる。
こうすれば,英数字だけを扱う既存のDNSのしくみを変えずに済む。ユーザーに見える表示は日本語だが,ネットワーク上でやりとりされるのは従来通りの英数字というわけだ。日本語ドメイン名を含む国際化ドメイン名のココロはここにある。
DNSサーバーの動作は従来どおり
日本語ドメインを使ったときのやりとりをもう少し詳しく見てみよう。
まず,WebブラウザのURL入力欄に「日経.jp」という日本語ドメイン名を入力して,Webアクセスを実行してみよう(図3-2(1))。するとWebブラウザが「日経.jp」というドメイン名を「xn--wgvw43c.jp」というドメイン名に変換する*6((2))。
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図3-2●日本語ドメイン名を使った名前解決のしくみ インターネット上では,日本語ドメイン名を半角英数字に変換した名前が使われる。DNSサーバーには,変換後のドメイン名に対応したデータ(IPアドレスなど)が登録されている。 [画像のクリックで拡大表示] |
以降,DNSサーバーとやりとりされるドメイン名は,この「xn--wgvw43c.jp」という文字列になる。パソコンは,xn--wgvw43c.jpというドメイン名のIPアドレスを得るために,ローカル・サーバーへxn--wgvw43c.jpドメインのAレコードを問い合わせる((3))。
サーバーは変換後の名前を管理
すると最終的には,xn--wgvw43c.jpドメインを管理するDNSサーバーにたどりつく。このサーバーは,日経.jpというドメイン名を取得した組織が運用しているはずだ。このDNSサーバーのゾーン情報には,xn--wgvw43c.jpというドメイン名に対するIPアドレスがAレコードとして登録されている。つまり,変換後の「xn--wgvw43c.jp」が,資源レコードとして登録されている。
問い合わせを受けたDNSサーバーは,自身のゾーン情報を検索し,xn--wgvw43c.jpのAレコードに記載されているIPアドレスを返答する((4))。こうしてWebブラウザは,目的の「日経.jp」のIPアドレスを取得する。
DNSサーバーにとってみると,要求のあったドメイン名に対するデータをそのまま返すだけ。これは,従来のDNSのしくみと何ら変わっていない。