システム間連携のやり方は,1対1のファイル転送や,メッセージ・キューイング*2,独自に組み込むRPC*3など様々な方法がある。特に,メインフレームを主体としたファイル転送は,やり方も確立しノウハウも蓄積されている企業も多い。

 しかし,これらのシステム間連携のやり方では,変更や新規の要求があれば,連携に関係するすべてのシステムに変更や調整が必要となる。そのため,既存の業務フローが少し変わっただけでも,システム変更も時間がかかった。

 システム間連携で,Webサービスを使えば,お互いでやりとりを決めなくてもすみ,仮にどちらかに変更があっても他のサービスに影響をかけない。このメリットを活かしたのがNTTコミュニケーションズだ。

プロセスとシステムを分離

 NTTコミュニケーションズは,ISP向けに提供するVoIP卸サービスで,Webサービスを用いている(図3)。このサービスは,百数十社のISPが利用する。Webサービスを用いるまでは,1日一回のバッチ処理によるファイル転送であったため,IP電話サービスの開始までに時間を要していた。また,それぞれのISPとの間で,インタフェースを取り決める必要もあった。

図3●百数十社とシステム間連携する新サービスを2カ月で実現
NTTコミュニケーションズは,百数十社のISPが利用するVoIPサービス申し込み受付システムを2カ月間で構築した。従来から利用していたEAIツールと.NET Frameworkを組み合わせて,Webサービス化することで,新サービスを短期間で実現できた

 Webサービスの利用で,各社とのインタフェースの調整が不要となったほか,「各社が必要に応じて,メソッドをコールしてくれれば,リアルタイムに連携できる」(NTTコミュニケーションズ 総合カスタマサービス部 OSS開発部門 担当部長 西山敏雄氏)。

 VoIP卸サービスのWebサービスによるシステム間連携の基盤となったのが,米Vitria TechnologyのEAIツール「BusinessWare」だった。このEAIツールは従来からADSLサービスの申し込み受け付けと,DSL事業者への回線発注業務で使われていた。ダイヤルアップ接続サービスからADSLサービスへの切り替えは,「OCN*4の中ではプランの変更だが,ADSL回線は新規に発注しなければならない」(西山氏)処理だった。

 そこで,OCNの既存システムにある「プラン変更」とDSL事業者への「回線発注」をEAIツール上でワークフローとして結びつけた。EAIツール上でADSLの切り替え申し込みを受け付けてADSLの回線工事を発注する。ADSLの回線工事が完了したとEAIツールに応答が来た時点で,初めてOCN上のプラン変更を行うようなプロセスを設定した。EAIツールへこのプロセスを切り出せなければ,いったんOCNのダイヤルアップを解約し,ADSLを新規に契約するというアプリケーションを作る必要があった。

 現在,50前後のシステムがEAIツール上で連携しているが,すべての処理をWebサービスで行っているわけではない。「リアルタイムで行う場合は,XML*5/SOAP*6のWebサービスが便利だが,1対1のバッチ処理でよい場合は,今まで通りFTPやRPCを使う」(西山氏)。

XMLの暗号化に一工夫

 三菱化学は2004年2月,約250のグループ会社の連結決算のデータ収集にWebサービスを利用した(図4)。

図4●連結対象会社250社とのやりとりをWebサービスで効率化
三菱化学は,これまでメールでやりとりしていた連結決算のデータの収集処理をWebサービス化した。EAIツールとWebサービスの活用で,構築期間,半年で業務の効率化を実現できた
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 2004年度から,四半期ごとに連結決算情報の開示が義務付けられ,既存のやり方では不可能だと判断したからだ。従来は決算データをExcelに入力し,そのExcelファイルをLotus Notes経由で,本社の経理担当者に送っていた。担当者は250個のファイルを1つずつ開いてチェックする必要があった。

 Excel上のデータをXML化して送る機能がExcel 2003から加わることが分かり,XMLとSOAPを用いて,サーバー側でデータ・チェックができるシステムを構築することにした。「XMLを使えばデータの扱いが容易になり,連結システムに投入する前に,データをチェックできる」(菱化システム アプリケーションマネジメント本部長 常務取締役 桑島高一郎氏)。

 XMLのデータはいったんBizTalk Serverが受け取り,チェック・ロジックを持つOracle Databaseと連携する。Oracle Databaseでチェックが終わった後,連結決算システムへデータを投入する。この一連の流れが自動化され,「業務効率はかなり改善されている」(三菱化学 情報システム部長 土居章展氏)。

 ただし,インターネット経由でXMLを取り扱うには工夫も必要だった。セキュリティを重視したいが,XMLやWebサービスに関するセキュリティの仕様は確定していない。XMLはタグを付けてデータを説明するため,漏えいするとデータの中身が分かってしまう。そこで,タグ名を「売上」と明記するのではなく,「01」というように数字の並びに置き換えて明記するようにした。