日立インフォメーションテクノロジー
ネットワーク事業部
ネットワーク企画・マーケティング部
シニアスペシャリスト
鈴木 郁男 日立インフォメーションテクノロジー
ネットワーク事業部
ネットワーク企画・マーケティング部
シニアスペシャリスト
鈴木 郁男

そのプラント施設は、東京ドームが4個は入る広さ。大きなタンクが林立し、ステンレス製のパイプが縦横無尽に張られている。こういった環境に無線LANを導入するのはかなり難しい。それもFOMA/無線LANデュアル端末を使うのは。最悪の設置環境でも、ユーザー企業の施設を自由に調査できるわけではない。そして、電波測定ツールと「N900iL」の受信感度の差が追い討ちをかける。

 「無線LAN設計は難しい」といった声をよく聞く。データだけでなく、音声も扱うとなればなおのこと。日立インフォメーションテクノロジーでもご多分にもれず、無線LAN関連で当初からさまざまな障害に遭遇した。そうした苦労があるからこそ、それを反省し、次に生かせる(はず)。

トラブルの連続、プラント施設でのN900iL導入

 あるプラント施設でFOMA/無線LANデュアル端末「N900iL」を導入するという案件があった。100台のN900iLを東京ドーム4個分は入りそうな広いプラント内で使いたいという。受注前の調査から、受注後の調査、実際の導入まで、トラブル続きであった。まず、受注前にプラント施設の平面図を入手し、ツールを使ってサイト・サーベイを実施した。

 サイト・サーベイは、無線LAN構築では欠かせない事前調査である。図面などを見て大雑把にAPの設置場所を決め、そこに一時的にアンテナを取り付ける。そして、サイト・サーベイ・ツールを持ち歩き、エリア内の電波状態を記録してゆく。電波が届かないポイントなどを把握し、正式なAPの設置個所を決める(図1)。これをもとに、システム構成、特にAPを設置する場所と台数を割り出す。

 サイト・サーベイ・ツールというのは、無線LAN機能搭載のノートPCに、専用ソフトウエアをインストールしたものである。図面などをもとに、あらかじめ調査するエリアの構造(壁の配置など)を入力しておく。あとはエリアを歩きながら、PCの図面上で測定するポイントをクリックしていくだけで、電波の強弱を表す電界マップができあがる(図1)。マップには、電界強度が地図の等高線のように表示される。測定していないエリアの電界強度も予測し、マップ上に表示。

図1●サイト・サーベイ・ツールによる電界強度マップ
フロア・マップ上に、電波の強さが色分けによって表示される(右下の凡例で、色と電波強度の関係を示す)。測定していないエリアの電界強度も予測し、表示する。
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 さて今回は受注前ということで一部エリアしかサイト・サーベイができなかった。調べられたのは、全体の1割にも満たない。プラント施設の大きさは野球場の4倍以上という広大な面積。不安が増すばかりであった。

 ユーザー企業のシステムの導入環境を事前に確認できないケースは、サイト・サーベイに限らず、よくある話。ユーザーにしてみればセキュリティの観点から、できるだけ外部の人は入れたくない。ベンダーはそれに従わざるを得ないため、あとはヒアリングなどで補うしかない。

 一部エリアのサイト・サーベイの結果と平面図、それと目に見える設備、これがほぼすべての情報である。これらをもとに「きっとここはああだろう、こうだろう」と、正直当てずっぽうに近い推論をしながら、システムに必要な機器、APの設置場所と台数を決めていった。

 今思えば立ち入り禁止エリアの状態を把握するため、もっとヒアリングをするべきであった。あとからAPを増設が必要になっても、「追加費用を頂きたいのですが」と言えない。たとえ、言っても断られるのがオチだろう。