MACフレームが作られると,次はそれを電気信号に変え,LANケーブルに送り出す。10BASE-Tや100BASE-TX,1000BASE-Tで使うLANケーブルは,UTPケーブル*1である。

 シーン2では,イーサネットの伝送技術の中核であるMACフレームの送受信のしくみを見ていこう。

MACフレームは電気信号にして伝送

 イーサネットで実際にMACフレームを運ぶのは,UTPケーブルの中を通る電気信号である。MACフレームを構成するビット列は,すべて電気信号に変換しなければならない。

 UTPケーブルは,中に8本の心線が通っている。心線は2本ずつより合わせてあり,全部で4対の銅線になっている。この1対が電気信号を伝送する単位である(図2-1)。

図2-1●UTPケーブルの構造
図2-1●UTPケーブルの構造
8本のケーブル心線が中心を通っている。これらを2本ずつ対にして,より合わせてある。

 ケーブルで送られる電気信号は,長い距離を伝わると減衰してしまう。こうなると,少しのノイズでも信号が読み取れなくなり,相手に正しくデータを届けられなくなる。

 伝送速度を速くするには,電気信号の周波数を上げなければならない。単純に1ビットを送る場合,電気信号の波形が1個必要になるので,ビットを高速に送ろうとすると,波形の繰り返しを速く,すなわち周波数を上げなければならないからだ。速度と周波数はほぼ同じ値になる。

 ところが都合が悪いことに,高速化のために電気信号の周波数を上げると,減衰する度合いが増えて,どんどんノイズに弱くなる。そのため,10Mビット/秒から100M,ギガへと高速化してきたイーサネットは,さまざまな工夫を取り入れてきた。

高品質のケーブルで100メガ達成

 10Mビット/秒から100Mビット/秒へのスピード・アップは,高い周波数の電気信号を伝えられる高品質のケーブルを採用して実現した。

 10Mビット/秒の10BASE-Tでは,UTPケーブルの四つのより対線のうち,二つだけを使う。一つは送信用,もう一つは受信用である。つまり,より対線一つ当たり,10Mビット/秒のデータを送れればよい(図2-2)。そこで使われていたUTPケーブルの品質は「カテゴリ3*2」と呼ばれるもので,最大16MHzの電気信号まで伝送できる。

図2-2●フレームの伝送速度と電気信号の関係
図2-2●フレームの伝送速度と電気信号の関係
送信MACフレームは,NICで電気信号に変えられ,ケーブルに送り出される。そのフレームの速度が違えば,電気信号の周波数や,それを伝えるケーブルも異なってくる。
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 一つのより対線で100Mビット/秒を送る100BASE-TXだと,カテゴリ3の周波数では信号を伝えられない。そこで,最大100MHzまでの電気信号を通す「カテゴリ5」と呼ぶ高品質のケーブルを使うことにした。

 しかし,ケーブルの品質を上げるだけでは解決できない問題があった。実は100Mビット・イーサネットでは,元のMACフレームに冗長ビットを加えており,100Mビット/秒のデータを送るのに125MHzの周波数の電気信号を通す必要があるのだ。これでは,カテゴリ5の許容範囲を超えてしまう。

 そこで100Mビット・イーサネットでは,実効周波数*3を4分の1にする手法を採用した*4。これによって,電気信号の実効周波数を31.25MHzに抑えつつ,100Mビット/秒の伝送を実現したのである。

ギガはケーブルと符号化の両面で工夫

 100Mビット/秒から1Gビット/秒への高速化はさらに難しかった。100BASE-TXで採用した方法をそのまま流用したのでは,周波数は10倍の312.5MHzになってしまう。こんなに高い周波数の信号を通すUTPケーブルを作るのはほとんど不可能だ。

 そこで,1Gビット/秒のイーサネットでは,ケーブルの使い方から変えることにした。

 まず,従来は2対しか使っていなかったより対線を,4対すべて使うようにした。さらに,一つのより対線を送信と受信の両方に使う。これによって,送信(または受信)に100Mビット・イーサネットの4倍に当たる四つのより対線を使えるようになった。

 一つのより対線で同時にデータを送受信するためには,送信と受信をうまく分ける必要がある。そこで,1000BASE-T用のPHYファイチップ*5には,送信信号と受信信号を分離するための「ハイブリッド回路」という特別な回路が組み込まれている。

 しかし,これでもより対線一つ当たり250Mビット/秒のデータを送らなければならない。100Mビット/秒の2.5倍である。

 そこで1000BASE-Tではさらに実効周波数を低くするために,特殊な符号化方式*6を採用し,1個のパルス*7に多くの情報を載せることにした。電圧を5段階(5値)に変え,1個のパルスで多くの値を表現したのである(別掲記事を参照)。5値のパルスを四つのケーブルで同時に送るので,一回のパルス送信で625通りの情報を送れる。この工夫で,極端に周波数を上げなくても高速化できた。

 図2-2でケーブルから送り出される電気信号の波形を比較すると,ギガビット・イーサネットが4対すべてを使っていかに複雑な波形の電気信号を送り出しているのかが理解できるだろう。