ビフォー・ アフター

 首都圏12カ所の駅ビルを運営するルミネ(東京・渋谷)は「小売業の心を持つデベロッパー」を目指してきた。この際に欠かせないのは、顧客の動向を教えてくれるルミネーカードだ。そのカードの運用効率が、会員数の増加とともに低下の一途をたどってきたため、一昨年11月に顧客情報分析システムを刷新した。

 従来は、分析に時間がかかるうえに他店舗の動向も分からなかった。刷新後は入店している店舗を取り仕切るルミネの営業担当者である「フロアマスター」が自ら端末に向かい販売動向を分析できるようになった。現場で分析した販売動向は、その場でテナントへフィードバックできる。マップ分析と呼ばれる機能では、顧客の住所と地図を組み合わせて分析して、DM(ダイレクトメール)や鉄道内や駅構内の広告戦略の参考にするという鉄道会社の子会社らしい手法も使っている。


 
ルミネ新宿店は今年3月にオープン30周年を迎えた。写真は新宿店「ルミネ1」の2階  

 「駅の上にはルミネがある」――。首都圏にあるターミナル駅の駅ビルを生かしたショッピングセンターを展開するルミネの業績が好調だ。 ファッションを中心とした人気テナントを巻き込みながら立地の良さにあぐらをかかず、1999年3月期から7期連続での増収増益を堅持する。2006年3月期は売上高2076億円、経常利益63億円を計上した。旧運営会社4社の合併による新会社が誕生してから15年目の同社は、親会社のJR東日本にとっても孝行息子だろう。

6年でほぼ全店舗が入れ替わる

 ルミネの収益の柱は、テナント企業からの賃料である。賃料は一部を除いて各テナントの売上高に比例する仕組みだ。テナント企業が売り上げを伸ばせば、ルミネに入ってくる賃料も増える。

 7年連続で増収増益を続けるルミネは、入居している企業を叱咤(しった)激励し、厳しく指導することで成長を遂げようとしてきた。その一端が「CSアクションプラン」と呼ぶ取り組みだ。ルミネはテナント企業と話し合うなかでアクションテーマを定め、四半期ごとに具体的な数値目標を定めてきた。

●仮説の検証が容易になったため、分析は現場の仕事になった

 さらに、毎年9~11月には外部の専門家に依頼して覆面接客診断を行ってきた。アパレルの買い物をする際の接客姿勢、飲食店でのサービスなどをテナント側に秘密で調査し採点する。

 一定の点数に達さない場合は、改善計画を立てなければならない。テナントの従業員の接客態度から商品の配送体制まで深く関与することで「貸しっぱなし」ではない、共存共栄を図ってきた。

 テナントを育てるだけではない。ルミネとテナントの方向性が合わないと判断した場合は退店もいとわない。年間15%の店舗面積が入れ替わっていくという驚異的な速さで新陳代謝している。6年たてば、ほとんどの店が入れ替わるというスピードだ。

 この一連の取り組みを支えているのが、テナントにおける購買にポイントを付与するルミネカードだ。ルミネがカードを発行し始めたのは97年2月。カードで得た情報を活用し始めたのはその2年後だ。

会員の倍増でシステムに負担増

 ルミネでは入居しているテナントへの窓口となる営業担当者「フロアマスター」が販売動向を分析して指導に当たったり、販売戦略についての企画を提案する。

 当初は販売情報のデータベースにアクセスできる端末が1店舗につき1台しかなかった。フロアマスターはその名の通り1つのフロアに1人で多くのテナントを担当する。端末台数が不足していたと同時に店舗の端末で実行できる分析には限度があった。

 分析作業そのものにも、多大な時間がかかった。店舗に1台しかない専用端末は売り上げのチェックなどほかの作業に使われることが多く、フロアマスターが分析に使える時間は限られていた。本社のシステム管理者に分析を依頼しても2~3日の時間が必要だったという。

 
営業部販売促進グループの佐藤伸洋サブリーダー(左)と総合企画部の武田政昭マネージャー  

 フロアマスターは日々刻々と変化する販売動向を分析しながら矢継ぎ早に改善策を練らなければならない。自分で分析ツールを使えるということは顧客の動向に関する仮説を検証する作業をこまめに行えるということだ。いちいち依頼していては必要な情報が最適なタイミングで手にできない。

 加えて、従来は他店舗の情報にはアクセスできないという問題があった。例えば、Aというテナントが新宿店と横浜店に入居している場合、新宿店のフロアマスターが横浜店の販売動向を参照したいとしても、その操作は煩雑だったり本部のシステム管理者への依頼が必要で時間がかかっていた。

 営業部販売促進グループの佐藤伸洋サブリーダーによると「フロアマスターは他店舗の動向を見て自分が受け持つテナントへアドバイスをする。テナントを誘致する部隊は流行の店を調べるために他店舗の販売動向を見る」という。

 ファッションは商品サイクルが短い商品だ。年々その傾向は強くなっている。商品サイクルが短くなればなるほど、一店舗で成功したテナントやプロモーションはほかの店舗にいち早く展開せねばならないのに、従来のシステムではそれが実践しにくかった。 

 そこで2004年2月にルミネでは新しい販売動向分析システムの開発を決めた。開発に際して意識したのは、他店舗の情報を見られたり、分析を担当するフロアマスターにとっての利便性やスピード、会員数の増加に耐え得る拡張性などだった。すべての店舗のフロアマスターにヒアリングを行い、現場の声を開発に生かした。


上木 貴博