現在「仮想化フォーマット戦争」が起きている。主役は米Microsoftと米VMwareだ。一部の人は,業界標準の登場によって,仮想化ソリューションとアドオン製品の開発が加速すると信じている。多くのSIベンダーは,突出した市場のリーダーが仮想化APIを業界標準策定組織に提案するのを待っている。何らかの仮想マシン標準が確立することで,製品間に相互運用性が生まれるのを望んでいるのだ。この分野で何が起きているのか,知っておくべきことを紹介する。

先行しているのはVMware

 VMwareは仮想化分野のパイオニアであり,PCをベースにした技術でサーバー向けの仮想化市場を活性化し,過去10年間,仮想化技術を確実に進化させてきた。VMwareはサーバーとクライアントの両方に仮想化ソリューションを提供しており,これらは頻繁にアップデートされて,改善されている。さらに同社は,WindowsとLinuxの両方をサポートしているので,必要性に応じてプラットフォームの組み合わせを使い分けている企業の間で人気が高い。

 VMwareはクライアント用として「VMware Workstation」に加えて,「VMware Player」も提供している。これは無償ソフトウエアで,VMware Workstationを使わなくても,あらかじめ構築された仮想マシン(VM)環境があれば,それを使って仮想マシンを運用できる。サーバー用としてVMwareは,無償ソフトウエアである「VMware Server」に加えて,「VMware ESX Server」と「VMware Virtual Center」を提供している。VMware Virtual Centerは,仮想マシン・ソフトウエアの管理ツールである。これらのサーバー用製品は「VMware Infrastructure 3」というスイート製品に含まれている。

仮想化製品の無償化を進めるMicrosoft

 Microsoftは主として,2つの仮想化製品を提供している。「Virtual PC 2004 Service Pack 1(SP1)」と「Virtual Server 2005 Release 2(R2)」だ。Virtual PCはクライアント用製品で1年以上アップデートされていないが,Microsoftは先日この製品をユーザーに無償公開した。来年には,Windows Vista用の「Virtual PC 2007」を無償で出荷する予定だ。

 またWindows Server 2003とWindows XPのユーザーは,MicrosoftのWebサイトからVirtual Server 2005 R2を無償でダウンロードできる。Virtual Server 2005 R2は,多くの企業向け機能が追加されたサーバー用製品である。Microsoftは現在,Virtual Server 2005 R2用の様々な管理ツールを設計している最中であり,どのような仮想化ニーズがあって,ユーザーにどういったオプションが提供できるか調査を続けている。

標準化に向けた取り組みも始まる

 VMwareとMicrosoftは,標準化に向けた取り組みにも参加している。両社とも「Distributed Management Task Force(DMTF)」という相互運用性標準策定組織に加入しているのだ。口火を切ったのはVMwareで,自らの経験やAPI(アプリケーション・プログラミング・インターフェース),コードの一部をDMTFに提供した。Microsoftも,自社の知識をDMTFに提供している。Microsoftはまだ仮想化製品のソース・コードやAPIを公開していないが,顧客やパートナと協力して,Windowsベースの仮想化製品を開発することに意欲を見せている。例を挙げると,Microsoftは5月に開催した「Windows Hardware Engineering Conference(WinHEC)」の参加者に, Windows Hypervisor向けハイパーコール・インターフェースのプレ評価版を提供している。

 またVMWareは「VMware Community Sourceイニシアチブ」も開始している。このプログラムは,VMwareのパートナがESX Serverのソース・コードを閲覧可能にすることで,VMwareが仮想化を実装している仕組みを理解し,様々な提案ができるようにするものだ。

Microsoftは仮想化技術をOSに標準搭載

 Microsoftは,サード・パーティの管理ツール・ベンダーなどが,Microsoftの「Virtual Hard Disk(VHD)」形式の仮想ハードディスク・フォーマットをサポートすることで,VHD形式が事実上の標準になることを期待しており,VHD形式を無償でライセンス供与している。しかしMicrosoftは今でも同フォーマットの権利を保有しており,その気になればいつでも無償ライセンスを無効にできる。

 Microsoftは将来のことを見据えて,ハイパーバイザー技術のことを熱く語っている。ハイパーバイザー技術は,Longhorn Serverリリース後にWindows Serverに追加される仮想化レイヤーだ。Microsoftによると,ハイパーバイザーは驚くほど小さく,しかもOS内部の低いレベルに位置することになるので,今日のアプリケーション・レベルの仮想化ソリューションに勝るパフォーマンスを提供できるそうである。だがVMwareは「Microsoftのハイパーバイザー技術は,顧客が自分に必要なソリューションについて考えることを認めるのではなく,一方的なライセンシングによって顧客を囲い込み,Windowsに縛り付けるものだ」と警告している。

 Microsoftがこれまでに起こしてきた独占禁止法に絡むトラブルのことを考えると,Microsoftは市場リーダーを打ち負かすために自らの仮想化技術をWindowsにバンドルしている,というVMwareの主張には強い説得力がありそうだ。だがVMwareの社長Diane Greene氏が筆者に語ってくれたところによると,同社は法廷ではなく市場でMicrosoftと争うつもりだそうだ。Diane Greene氏は,「法廷ではなく,市場に仮想化技術の標準を決めてほしい。それがVMwareのものであっても,Microsoftのものであってもいい。標準を決めることによって,仮想化は次のレベルに進むことができるからだ」と語っている。

 それではなぜMicrosoftは,こうした顧客中心の動きに異を唱えるのだろうか。「皆がMicrosoftのフォーマットを使うようになったら,Microsoftは顧客を自分たちの管理ツールに縛り付けられる」とDiane Greene氏は筆者に語った。「だが実際のところ,フォーマットは大した問題じゃない」(Diane Greene氏)。この言葉を裏付けるかのように,VMwareはVMware Virtual Machine Importerを使って,VHDフォーマットを自らのフォーマットに変換できるようにしている。

 現時点で,仮想化技術は既に企業にとって重要なものになっている。多くの企業ユーザーは,何年先になるか分からない標準化プロセスの完了まで待っていられない。サーバー環境の一部を仮想化したいと思っている企業は,ベンダーに対して自社製品を真の標準化プロセスに開放して,仮想マシン・フォーマットの権利を自らの影響が及ばないところにいる独立組織に譲渡するよう働きかけるべきだ。仮想化技術は標準化が実現するまでは,あらゆる企業で使われる一人前のツールに脱皮するのに必要な,業界からの承認を得られないであろう。

 今のところ,Microsoftの製品しか使わないという熱狂的な同社のファンならば,Microsoftのソリューションを使った方がいいかもしれない。そうでない人は,実績と機能に勝るVMwareの製品群のほうを気に入ることだろう。