アイ・ティ・アール(ITR) シニア・アナリスト 金谷 敏尊 氏 入谷 光浩 氏

矢野経済研究所 エンタープライズコンピューティング事業部 上級研究員
OS・ミドルウエア市場を担当。特にLinuxをはじめとするOSSに関するユーザー/ベンダーの動向分析に注力している。

 昨今のめざましいOSS(オープンソースソフトウエア)の台頭に、SIerもその存在を無視できない状況になっている。これからのビジネスの中で、「OSSとどうやって付き合っていくのか?」という課題を、多くのSIerは突きつけられているのではないだろうか。

 商用ソフトのようにライセンスで稼ぐことができないOSSにとって、真っ先に考えられるビジネスモデルは「サポート」である。例えば、LinuxのRed Hatの場合、サブスクリプションを購入することで、サポートを受けられる仕組みになっており、このサブスクリプション料によって収益を上げている。

 Linux以外のOSSはどうだろうか。OSSは世界中の様々なコミュニティで開発されており、その種類は膨大である。OSやデータベース、アプリケーションサーバー、グループウエア、開発ツールなど、あらゆる種類のOSSが存在しており、最近はERPやCRMも登場している。OSは1つのソフトとして完結しているので、それだけでビジネスが成立するが、OS以外のものは単なる部品であり、それらを組み合わせてインテグレートすることで初めて威力を発揮する。しかし、あらゆる種類をサポートしていくのは現実的ではない。

 そこで現在、いくつかのSIerは、サポートするOSSをあらかじめ決めておき、その範囲の中でサポートするというやり方を取り始めた。例えば、NECでは21種類のOSSに対して構築サポートを、さらにその中の11種類に対しては保守サポートも行っている。これらに含まれているのはDBソフトのPostgreSQLやMySQL、アプリケーションサーバーのApache、Tomcat、JBossなど、システムを構築するための基盤となるミドルウエアが中心である。OSSを選定しておくことで、SIerは効率よくサポートできるし、ユーザーも安心してOSSを利用できる。

 また、OSSスタックと呼ばれるものも登場している。米国のOSSベンダーであるSpikeSource社が、相互運用性のテストと検証を済ませたOSSコンポーネントをスタックとして統合して提供している。OSSはバージョンアップが不定期に行われ、相互運用性やアップデート情報の収集などの検証作業に膨大な労力が必要になる。スタックを利用すればその手間を省くことができ、OSSを導入しやすくなる。日本では大手独立系SIerのシーイーシーがSpikeSourceと提携し、スタックに対するサポートを提供している。スタックは無償でダウンロード可能であるが、サポートは有償である。

 今後もSIer各社からこのようなOSSサポートサービスが提供されてくるだろう。膨大にあるOSSの中から、性能や機能、ニーズを考慮して選定を行い、自社のビジネスに取り入れていく。これはOSSだからこそできるのであり、今までのソフトビジネスとは全く異なるものである。

 OSSの登場により、ビジネスが変化しつつあるのは間違いない。ただ、OSSは確固たるビジネスモデルが確立されておらず、各企業は模索している段階である。今回紹介したのは一例にすぎず、ほかにも様々なモデルがあるだろう。だからこそ魅力的な市場と言える。ソリューションプロバイダは一度、OSSによるビジネスチャンスを真剣に考えてみてはどうだろうか。意外なところにチャンスが転がっているかもしれない。