2007年1月以降,皆さんの元に届く電話の料金請求書には,見慣れぬ支払い項目が追加されているかもしれない。その金額は1契約番号当たり「7円」。項目の名称は「ユニバーサル・サービス」という言葉が頭に付いて,その後に「負担金」,「協力金」,「補てん金」,「基金」などが続くものになりそうだ。

 これは,ユニバーサル・サービス制度の発動に伴うもの。ユニバーサル・サービス制度とは,生活に不可欠となる電話サービスを広くあまねく提供するために,必要な費用を通信事業者全体で負担する制度。NTT法でユニバーサル・サービスの提供が義務化されているNTT東西地域会社に対し,山間や離島など不採算地域における費用の一部を負担する。

補てん額は毎年上がる可能性が大

 ユニバーサル・サービス制度の発動が一気に現実味を帯びてきたのは9月15日。支援機関である電気通信事業者協会(TCA)が,月額7円という番号単価の発表を含めて総務省に認可申請した(関連記事1)。これは東西NTTに補てんする金額(151億7794万1715円)にTCAの支援業務にかかわる費用(1億2353万6000円)を加え,その合計額を算定対象電話番号の総数(2006年6月末時点で1億7920万9533番号)で割り,さらに12で割って月額として算出したものだ。以下では算定式の各項目について解説を試みたい。

 まず東西NTTに補てんする金額の算出根拠は,ユニバーサル・サービス制度の導入・枠組みの議論において,最も紛糾したところだ。それは,発動の仕組みが一度見直されたことからも分かる。当初は東西NTTが赤字地域における損失を黒字地域の利益で埋め,それでも赤字が残る場合に限り,基金が発動することになっていた。それが2005年度の見直しで,現行のような高コスト地域への直接補てんに切り替わった。その時点から2006年度の発動は確実視されていた。ある関係者が「発動させないことを前提にした仕組みから,発動させることを目的とした仕組みへの大変化」と当時を述懐するように,議論を尽くしたとは必ずしも言えない面がある。

 またこの補てん額は増加することが確実視されている。東西NTTが接続料で回収していたNTS(non traffic sensitive)コストが,2005年度から基本料の費用へと段階的に付け替えられていくからだ。総務省情報通信審議会の2005年10月25日付の答申によると,2006年度は195億~275億円,2007年度は280億円~380億円と試算されている。

ありとあらゆる電話番号が対象に

 算定式の第2項「TCAの支援業務にかかわる費用」は1億2353万6000円が計上されている。全額の1%に満たないとはいえ,1億円以上という金額の内訳は気になるところ。TCAによると,このうち9700万円が新聞などの広告経費(9月と来年1月の2回)と問い合わせ受付のコール・センターに関するものという。つまりこれらの費用は制度の発動に伴う初年度限りのもので,来年度以降は大幅に減額となる可能性が高いとする。

 そして算定式の第3項となる電話番号数だが,ありとあらゆる電話番号が対象となる。固定電話はアナログ,デジタル,IPを問わず,携帯電話/PHS,さらにはフリーダイヤルのような着信課金サービス,ダイヤルインといった付加サービスの番号も負担の対象となる。月額わずか7円の負担とはいえ,例えばひかり電話の追加番号サービスは月額105円だから,無視できる金額とは言い切れない。

 また,もちろんその番号を使っているかどうかは,全く関係ない。こうなると「番号返上」の動きが起こる可能性がある。例えばADSLやFTTHの付加サービスとして,基本料無料のIP電話サービスを契約しているユーザーにとっては,月額7円の“基本料”が発生することになる。これらのIP電話サービスは,キャンペーンやアップグレードの際に,何となく加入しているユーザーも少なくないことから,番号返上を巡ってのトラブルも起こり得る。

ユーザー転嫁に伴う説明責任は重い

 さてここまでの話は,「ユニバーサル・サービス制度の負担金はユーザーが支払う」という前提で進めてきたが,実はユーザーに支払い義務があるわけではない。支払い義務があるのは,2005年度の通信事業収益が10億円以上の事業者56社(東西NTTを含む)。それをユーザーに転嫁するか,そうせずに自社で吸収するかといった判断は各事業者任せとなる。

 ほとんどの事業者が総務省による認可を待って態度を保留する中,KDDIの小野寺正社長兼会長はいち早く「ユーザーに負担してもらう」と宣言した(関連記事2)。「ユーザーには迷惑をかけることになるし,反発もあるだろう。だからといって事業者が負担すればいいという問題ではない。ユニバーサル・サービス制度とは,どういう趣旨でどういったものなのか。きっちり説明して納得してもらうしかない」(KDDI小野寺社長)と,ユーザーとの対話を厭わない構えだ。

 小野寺社長の宣言を受けて,大手事業者はKDDIに追従してユーザー転嫁する可能性が高くなってきた。そうなった場合,補てんされる側のNTT東西の説明責任は特に重い。たかが7円,されど7円。ユーザー理解への道程は険しく遠い。