タビオ常務取締役の丸川博雄氏

 「タビオ」という社名は聞きなれなくても、「ダン」と聞けばピンと来る方も少なくないのではないか。「靴下屋」など国内最大の靴下専門店チェーンを展開する同社は2006年9月に社名を変更したばかり。日本のアパレル業界では最も進んだSCM(サプライチェーン・マネジメント)を運用する企業でもある。

 約200店舗での毎日売り上げを単品ごとに取引先のメーカーにオンラインで開示することで、メーカーの需要予測を支援し、発注の翌日には店頭に補充できる体制を築いた。「売れた分だけ即時に補充する」「店舗の横に工場があるような仕組み」を整備することで、機会損失を防ぎつつ、店頭や物流センターでの在庫を削減してきた。店舗とメーカーで情報を共有してクイックレスポンス(QR)を実現する取り組みは、アパレル業界のみならず、多くの企業でのSCMの手本ともなってきた。

 1980年代から取り組み始めたSCMの構築に力を尽くしたのが、現在常務を務める丸川博雄氏だ。そして丸川氏が今まさに取り組みを始めたのが、SCMのグローバル展開である。

 ダンは2001年から英国市場への出店を開始し、現在ロンドンで路面店、百貨店内店舗など6店舗を展開する。2006年度には売り上げが前年度比270%という実績を上げ、英国の老舗百貨店ハロッズで特別表彰されるなどの高い評価を得ている。あの「ユニクロ」も撤退した欧州市場で、日本のアパレルが成功した例は極めてまれだ。さらに台湾などアジアへの出店も積極的に行っていく方針で、「タビオ」への社名変更もグローバル化を前提としたものだ。

 製造は日本国内で、販売は世界で。「日本のものづくりの力を世界で問う」---。タビオがこだわるこのポリシーをグローバルな市場で貫くには、「国内店舗以上に精度の高い在庫フォローが求められる。欧州の百貨店は厳しい。速やかな在庫補充ができず、欠品を繰り返す店舗は、撤退を余儀なくされる」と丸川氏は話す。

 ロンドンの店舗での指定日納品率は現状でもかなり高いが、この精度をさらに高めるために、年内には新しい店舗システムを開発する。現在英国の店舗では、店舗管理用のパッケージソフトを利用しているが、新店舗システムは国内店舗向けの「DANTIS」を英語化し、さらに各国の課税制度などに対応させたものとなる予定だ。海外の百貨店のPOS(販売時点情報管理)システムとの連携も視野に入れる。「日本のアパレルのIT化は遅れているとよく言われるが、きめ細かい機能で取引を円滑化する力は決して負けてはいない」と丸川氏は指摘する。「海外市場で成長するためのツールとしてITをこれまで以上に駆使していく」 

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◆経営トップとのコミュニケーションで大事にしていること
 社長の越智直正が打ち出す経営理念を、仕組みに落とし込むことが自分の仕事だ。SCMの構築も、「ガラス張り経営」「(メーカーとの)運命共同体ではなく、取引理念共同体」という理念を仕組みにしたものであり、その前提にトップとの密なコミュニケーションがあることは言うまでもない。
 最近はむしろ、若手の力を引き出すことに注力している。方向性を見定めて、階段を上り始めたら、開発の最前線にいる若手社員の力量が成否を決する。自分の役割はそのための調整役と考えている。

◆ITベンダーに対して強く要望したいこと、IT業界への不満など
 「ITベンダーは提案力を高めろ」とよく言われるが、提案力を超えた「指導力」を持つべきと言いたい。多くの企業のシステム開発に携わるITベンダーは、成功事例やそのノウハウに関する情報を多く持っているはずだ。当社のように、企業規模は小さくても進んだ仕組みを持っている企業もある。企業規模や業種にかかわらず、多様な事例から「いいとこどり」をして、「おこがましい」と思われるくらい自信を持ってユーザーを指導してほしい。

◆普段読んでいる新聞・雑誌
自宅では、日本経済新聞、毎日新聞、奈良新聞。
会社で繊研新聞など業界専門誌を読んでいる。

◆情報収集のために参加している勉強会やセミナー、学会など
「小売店と生活者の対話研究会」(アーチャー新社が主宰)には、のべ15年参加している。注目を集める小売りやサービス業の実務者による講演から、生活者の購買行動やニーズを探り出すもので非常に参考になる。また「教えることは学ぶこと」と考え、中小企業大学や関西生産性本部で講師も務めている

◆ストレス解消法
真鯛釣りは18歳のときからの趣味で、今でも年3~4回は和歌山の海に出る。早朝に船を出して10時間。釣りをしている間は頭の中が空っぽになって仕事のこともすべて忘れられる。最高のストレス解消法だ。