■商談や会議における上手な会話の仕切り方について解説する「会話を仕切る編」の第3回です。前回は自分が「そうですね」とただ同意するだけでなく会話を広げていく方法を紹介しましたが、今回は相手に「そうですね」と言わせない方法を紹介しましょう。

(吉岡 英幸=ナレッジサイン代表取締役)


 前回ただ、「そうですね」と相槌を打てば、会話がスムーズに進むわけではないとお話ししたが、この「そうですね」は相手に連発させるのも避けたい言葉だ。

 会話というのは基本的に質問と回答のキャッチボールだ。商談や打ち合わせでも、まずはお客様にヒアリングのための質問から入ることが多い。そんなとき、いきなり「御社の課題は?」「今回のシステムに求める要件は?」なんて大ざっぱな質問をする人はあまりいない。

 自分なりになんらかの仮説を立てて「御社の課題は~ということですか」というふうにズバっと切り込むことの方が多い。インタビューテクニックで言う「クローズ質問」というやり方だ。

 そのような質問のされ方をすると、その通りならば「そうですね。(マル)」となるし、違っていれば、「いや、そうじゃなくて実は・・・」というふうに、相手から具体的な情報が提供されて、会話が広がっていくはずだ。

 いやいや、現実にはそう簡単ではない。なぜなら、人は相手の言っていることに著しく隔たりがない場合を除いて、なんとなく「そうですね」と言ってしまう傾向があるからだ。

50%の確率で人は「そうですね」と言う

 一度ご自身の目で検証してみればわかると思うが、一般にビジネス上で交わされる会話の中で、「そうですね」ほど頻繁に使われる言葉はない。面倒くさいからどっちでもいいやという場合や、ほとんど口グセになっている場合も含めて、「そうですね」は、相手の話の趣旨の50%ぐらいが正しければ、つい出てしまう言葉なのだ。

 それをもって「こちらの予想通りだ」と相手の意向を判断して、次の質問へと会話を進めてしまうと後で大きな誤解が発生することがある。よく「話が通じたと思っていたのに大きな誤解が!」なんてことがあるが、たいていこの「そうですね」を信じてしまうことが原因だ。

 それによって相手の意向を読み誤って大事な提案のツボをはずしてしまったり、重要なシステムの要件が抜け落ちてしまったりということになりかねない。

「そうですね」レスのためには究極の選択を提示

 会話に広がりを持たせ、相手から重要な情報を引き出すためには、できるだけ相手に「そうですね。(マル)」と言わせないことだ。

 そのためには「そうですね」と答えようのない質問をすること。有効なのは「AかBか」と選択肢を示す質問の仕方だ。しかし、この時に気をつけなければならないことは、選択肢のAとBの間に意味の上で大きな隔たりが必要だということ。AとBの間に隔たりがあまりなければ結局「(どっちでも)もそうですね」となってしまう。

 選択肢の違いにはいくつかの視点がある。
「100グラムの焼肉と1トンの焼肉どっちを選ぶ?」という数量の極端な違い、
「焼肉屋に行く? ユッケを食べる?」という意味の階層の違い、
「肉を焼くのと食べるのと、どっちにする」という立場の違い
 などなど明らかに違うものの組み合わせであることが重要だ。

 そうすることで、相手の具体的な情報を引き出すことができ、「会話が広がる」という状態になる。会話に「そうですね」が多い状態は“通じ合っている”状態ではなく、会話における敗北と考え、「そうですね」レスの会話をめざそう。


著者プロフィール
1986年、神戸大学経営学部卒業。株式会社リクルートを経て2003年ナレッジサイン設立。プロの仕切り屋(ファシリテーター)として、議論をしながらナレッジを共有する独自の手法、ナレッジワークショップを開発。IT業界を中心に、この手法を活用した販促セミナーの企画・運営やコミュニケーションスキルの研修などを提供している。著書に「会議でヒーローになれる人、バカに見られる人」(技術評論社刊)、「人見知りは案外うまくいく」(技術評論社刊)。ITコーディネータ。